藤井二冠が負け越している相手はほとんどいないが、豊島竜王以外で明らかに分が悪いのが大橋貴洸六段(28)で、2連勝のあと3連敗している。しかも3番とも有利とされる先手番で、いずれも「後手の横歩取り」と呼ばれる奇襲戦法に屈した。藤井二冠はこの作戦で上村亘五段(33)にも敗れており、苦手としているフシがある。

■羽生苦しめる渡辺佐藤

 藤井二冠への壁として仁王立ちしている豊島竜王が、6勝9敗と負け越しているのが菅井竜也八段(28)だ。2017年に平成生まれで初のタイトルホルダーになった実力者。翌年には豊島竜王が挑んでこの王位を奪っているが、それ以来の対戦となった今年9月の順位戦A級では菅井八段が雪辱した。だが、この菅井八段は藤井二冠に対し、初顔合わせから2連勝の後は5連敗を喫している。これが相性というものか。

「相性としてみればそうですけど、まだ番数として少ないので、この程度の傾きは起こり得るのかなという感じですね。羽生さんぐらいまで番数をこなすと実力通りの結果に落ち着いてくると思います。羽生さんは概ね、トップクラスの棋士に2勝1敗のペースで勝っています」(松本さん)

 1985年に3人目の中学生棋士としてプロデビューした羽生九段の通算対局数は2千を超え、勝率は7割以上をキープしている。逆に言えば、相手も3回に1回は勝っているのだがそれではタイトルに届かない。一昨年の竜王戦で広瀬章人八段(33)に敗れて無冠になったが、捲土重来のタイトル100期をかけ豊島竜王に挑む竜王戦では2局目まで1対1のタイだ。

 羽生九段がこの2勝1敗ペースを維持できていない相手が渡辺名人だ。棋王位を逃した15年3月時点で31勝34敗と負け越していたが、ここ5年で盛り返して40勝38敗と逆転した。永瀬王座には4勝8敗、藤井二冠には1勝4敗と負け越しているが対戦数も少なく、50歳にして羽生九段がトップの実力を維持しているのは疑いようもない。

 そのレジェンドが20局以上戦って唯一負け越している相手が、佐藤天彦九段(32)だ。羽生九段は16年の第74期名人戦で佐藤九段に1勝4敗で名人位を奪われ、奪還を期した2年後の名人戦でも2勝4敗で防衛を許した。しかし翌19年の第77期名人戦で佐藤九段は豊島竜王に4タテを食らって失冠。その豊島竜王に、佐藤九段は名人戦を挟んで10連敗中だ。(編集部・大平誠)

AERA 2020年11月16日号より抜粋

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