「科学的なメカニズムはまだ解明されていませんが、新型コロナウイルスによる脱毛の多くは、他の感染症などでもみられる脱毛と同じ『休止期脱毛症』の一つである可能性が高いとみられます」(大山さん)
「休止期」は、毛髪が生え変わるサイクルの一段階だ。サイクルは毛髪が伸びる成長期(2~6年)から退行期(2~3週間)を経て、成長が完全に止まる休止期(3~4カ月)に分類できる。通常、休止期から成長期に移行する際に毛が脱ける。頭髪の9割程度が成長期、1割弱が休止期にあり、1日に100本程度の頭髪が抜け落ちている。
ところが、ストレスなどによって毛髪の生え変わりのサイクルが乱れると、成長期が短くなって休止期に入る毛髪が多くなり、その結果、抜け毛が増える。大山さんは言う。
「新型コロナウイルスに感染した人の脱毛の多くは、ウイルスが毛髪に直接的に影響を及ぼしているというよりは、感染による肉体的な負荷や、感染によって生じる不安などの精神的なストレスによって起きている可能性が高いと思います」
加えて、新型コロナウイルスの重症患者の治療に使われることがある、血栓を防ぐ抗凝固剤といった薬の影響による脱毛や、感染によって免疫が刺激されることで、円形脱毛症など自己免疫疾患による脱毛が生じたり悪化したりする可能性も考えられるという。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERA 2020年11月16日号より抜粋