医学部の学費が高い、という実情は多くの人がイメージできるだろう。だが、コロナ禍で「1200万円値上げ」となればどう思うか。この時世に、なぜ。AERA 2020年11月23日号が迫った。
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ケタ違いの値上げ、と言ってもあながち間違っていない。
東京女子医科大は2021年度の入学生から、6年間の学費が約1200万円上がり、総額で4621万4千円になる。突然の値上げは受験生に衝撃を与えただけでなく、保護者の経済力が志望校の選択を左右することにもつながりかねない。
全国にある31の私立大医学部の学費を6年間の総額で低い順にまとめた。
■総額で4千万円超える
まず、国立大医学部の学費は6年間で約350万円なのに対し、私立大は最も安い国際医療福祉大が1850万円と、国立と私立でかかる費用は段違いだ。最も高額なのは、岡山県倉敷市にキャンパスをかまえる川崎医科大で、約4700万円。東京女子医大は今回の値上げにより、川崎医科大に次いで2番目の高さになる。
しかし、東京都内の医学部では、実は値上げの動きがすでに始まっていた。昭和大学は20年度から約500万円、また、帝京大学も20年度から180万円以上、いずれも6年間の学費を増やしていた。
各大学とも大学ホームページで学費を公開しているが、値上げした旨は表立って書かれていない。一般的に学費は入学時に示された額が6年間適用されるので、在学生には影響ないとされている。ただ、東京女子医大のホームページには、「学費等は在学中に変更される場合があります」とのただし書きがされている。
今回の値上げの理由も、同大から具体的な説明はない。東京女子医科大学労働組合の「組合だより」にも、「(値上げなどの)決定事項についてきちんとした説明がなされてきたのか、全てにおいて大きな疑問を残しています」と記されている。
気がかりなのは、新型コロナの影響だ。
終息の見通しが立たず「第3波」からも目が離せないなか、ウイルスは市中の病院経営も蝕んでいる。
一般社団法人「全国医学部長病院長会議」によると、全国の大学病院の医業収入はコロナ禍の4、5月に前年同月比で1割減少した。コロナの治療には感染対策の経費がかかるうえ、感染を恐れた患者が一時、受診を控えたことが大きい。
東京女子医大では6月、コロナによる収入減で、夏のボーナスを給付しないと職員に通達していた。ほどなくして、病院は一転、「資金調達のめどが付いた」と支給を決めたことで収まった。その直後、学費の大幅増がわかった。
やはり値上げはコロナの影響が大きいのか──同大広報室に尋ねると、11月上旬に文書でこう回答があった。
「今回の学費値上げと大学病院の経営との直接的な関係はございません」