「人間は昼間体温が高くなり、夜は下がるようにできている。脳や内臓、筋肉の動きなど、体のなかの反応はすべて酵素反応です。パンを発酵させるとき、温度が低いと発酵が進まず、高いほうが進みますよね。人間の酵素は38~39度ぐらいでもっともよく働くように設定されています。体を動かすときには体温が高いほうが活発に動ける。反対に、休息するときには低いほうがいいんです」

 深部体温は、24時間周期で変動している。入眠する頃からゆるやかに下がり続け、真夜中から早朝に底を打ち、そのあとは起床に向かって上がり始め、夕方にピークを迎える。体を動かさず横になっていたとしても、24時間のリズムは残るという。この「体温のメリハリ」が、一日のパフォーマンスや睡眠の質を大きく左右する。

 たとえば正常な排卵のある女性の基礎体温は低温期と高温期に分かれるが、早朝に測る基礎体温は就寝中の体温をあらわす。つまり、高温期は就寝中に体温が下がり切らないのだ。高温期には月経前症候群などの不調が起きやすい。また、うつ病の人の多くが睡眠障害を抱えているが、うつ病になると夜間の深部体温が全体的に高く、昼間と夜間の体温差、つまり体温のメリハリが少なくなることがわかっている。

「深部体温が下がらなければ、体が本当の意味での休息モードに入れません」(内山医師)

 体温のリズムを整えるにはどうしたらよいか。脳や睡眠について多数の著書がある作業療法士の菅原洋平さんはこう話す。

「体温は上げるべき時間帯にしっかり上げれば、あとは自然に下がります。下げることは考えず、上げることだけ考えれば大丈夫。そしてもっとも体温を上げるべき時間帯は、夕方です」(編集部・小長光哲郎、ライター・谷わこ)

AERA 2020年11月23日号より抜粋