ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、某雑誌からオファーがあってのそんだ写真撮影とインタビューについて。
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太陽の塔に行った。某月刊小説誌で“歳男の初詣”というグラビアがあり、わたしは七十二歳の部でノミネートされた。めでたさなどかけらもないが、そういう企画だからしかたない。セーターにマフラー、ダッフルコートという真冬の装りで撮影にのぞんだ。
はじめ、編集者は神社で撮影したいといったが、わたしはここ四十年以上、初詣はしていない。信仰心皆無だから、太陽の塔で撮りましょうと提案した(初詣は箕面に住んでいたころ、よめはんと近くの勝尾寺に行ったのが最後で、おみくじをひいたら大凶が出た。これは珍しい、と捨てずに持って帰ったら、ひと月ほどして、よめはんが千円札を拾った。よめはんはいつも下を向いて歩くくせに犬の糞をよく踏む)。
太陽の塔はいつもながらにばかデカくてかわいかった。プロのカメラマンによる撮影後、大阪市内に出て編集者のインタビュー(今月、その出版社から古美術品をめぐる、わたしのコンゲーム短編集が出るため、その内容に関する質問に答えるもの)を受けた。
▼取材はどうされましたか──。
▽行きあたりばったりでしたね。各々の短編によって二条城の模写室に行ったり、鋳造の工房で話を聞いたりしました。
▼取材はお好きですか──。
▽嫌いです。人見知りするから。資料を集めるのも読むのもめんどいです。
▼大変ですね──。
▽それがぼくの仕事です。
▼今回の短編集で苦労された点は──。
▽取材と資料読みはしんどかったけど、プロットに関して大した苦労はしてません。
そう、六編の短編のうち五編は考えもせずに降りてきた。
わたしは毎日、目覚めて頭がクリアなとき、寝床の中で小説のことをよく考える。そのほとんどはとりとめもない断片だが、たまに使えそうなアイデアが思い浮かぶのだ。