「コロナ格差」。新型コロナウイルスによる休校を機に子どもたちの間に広がる学力や生活環境の格差を、東京都内の小学校の養護教諭は、そう呼ぶ。家庭で勉強を見てもらえずついていけない子、親が失業し家で食事も食べていない子……。感染の拡大とともに格差は広がる一方だという。
【表】差が明らか…世帯所得別パソコン・タブレットPCを保有していない割合
ここは東京都内の小学校の保健室だ。窓辺の水槽の金魚を、じっと見ているのは3年生の隆君(9)である。足を抱えて座って見始めて、もう30分になる。
2学期が始まって1カ月ほどたった10月半ば、教室に入ろうとすると、おなかが痛くなった。なぜなのか。本人は「わかんない」と言う。
だが養護教諭の幸恵先生は、コロナによる休校がきっかけではないかと見ている。担任の先生がプリントを自宅の郵便受けに次々入れていったが、隆君はやる気になれず、裏表に印刷された計36枚のほとんどが、白紙だった。
両親は介護の現場で働き、日中、家には中学生の兄と隆君だけがいる。どうすごしていたのか。本人は答えず、なぞのままだ。
分散登校を経て授業が通常に戻ると、担任の先生はいつもの年の進度に追いつこうとスピードを上げた。隆君は、しばらくぼんやりしたり外を見ていたりして「お客様状態」だったが、「調子が悪い」「おなかが痛い」と保健室に来るようになり、そのままいついた。
保健室登校組は隆君だけではない。4年生の大地君(10)もだ。3人きょうだいの真ん中。父は運送業、母は、朝は弁当店、午後はスーパーとダブルワークで、二人とも大地君の学習の面倒を見るゆとりはない。
勉強が苦手な大地君はゲームに走った。いまも家で「ずっとゲームをしていたい」が、学校に来ているのは「給食があるから」。給食が「一日で最初のご飯」と話す。
この日の献立は、ミートソーススパゲティと大根サラダ、フルーツゼリー、牛乳。大地君は口いっぱいに詰め込み、4分半で一気に食べた。大地君が残したのを、幸恵先生は見たことがない。