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東京の山谷、大阪の西成と並び称される「日本3大ドヤ街」のひとつ「寿町」。伊勢佐木町の隣町で、寿町の向こう隣には、横浜中華街や横浜スタジアム、横浜元町がある。横浜の一等地だ。
その寿町を6年にわたって取材し、全貌を明らかにしたノンフィクション『寿町のひとびと』。著者は『東京タクシードライバー』(新潮ドキュメント賞候補作)を描いた山田清機氏だ。寿町の住人、寿町で働く人、寿町の支援者らの人生を見つめた14話のうち、「第一話 ネリカン」から一部を抜粋・再構成し、2回に分けてお届けする。今回は前編。
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吉浜町公園で友苑の350円弁当を食べようと思っていると、隣のベンチからじょぼじょぼと液体が流れ落ちる音が響いてきた。
友苑とは、東京の山谷、大阪の西成と並び称される横浜のドヤ街・寿町のシンボル、センターこと寿町総合労働福祉会館のはす向かいにあるスーパーマーケットである。
スーパーといっても、友苑は普通のスーパーとはかなり趣を異にする。細長い店内を縦に仕切る高い棚があり、棚を埋め尽くすのは無数のカップ麺、即席麺、パックご飯、缶詰、袋菓子などのすぐに食べられるものと、石鹸、歯磨き粉、ラップ、ホイルなどの日用品であり、一般的なスーパーの主力商品である野菜や魚などの生鮮食品は申し訳程度にしか置いていない。
その代わりとでもいうように、入って右手の壁ぎわと奥の冷蔵ケースの前を埋め尽くすのは、肉じゃが、イカ大根、玉子焼きといったパック入りの惣菜である。トマトやキュウリのざく切り、冷奴、おかゆにスープまでパック入りで売られているのには驚かされるが、要するにこの店、ドヤ(簡易宿泊所)で暮らす単身者専用のスーパーなのである。
惣菜の中心価格帯は100~200円だから、350円の弁当は高額商品の部類に入る。この、得体の知れないホルモンらしき具がのった丼を食べてみようと思い立ったのは、取材をする肚がなかなか決まらなかったからだ。口では寿町のひとびとを取材してみたいなどと言いながら、一歩寿地区に足を踏み入れては、滞在時間数十分で地区外に退散することを繰り返していた。