首都直下地震で最も恐ろしいのは火災だ。特に火柱の高さが200メートルにもなるという火災旋風は、都市大火の被害を飛躍的に増大させることで恐れられてきた。ドイツ・ハンブルクで1943年、和歌山市で45年に空襲によって発生したほか、23年の関東大震災では東京都墨田区の旧陸軍被服廠跡を襲い、避難していた約3万8千人が亡くなった。
「旋風に巻き上げられた人々は、一カ所に寄りかたまって墜落し、人の山ができた。そこにも炎が襲って、人の体は炭化したように焼けた」
『関東大震災』の著者・吉村昭はそう記している。
火災旋風は、関東大震災では東京で110個、横浜で30個発生したと報告されている。阪神・淡路大震災でも目撃された。「首都直下地震の時にも起きないとする理由は見当たらない」と消防庁消防研究センターの篠原雅彦主任研究官は言う。
火災旋風が起きると避難は格段に難しくなる。広さ10万平方メートル程度以上の避難場所に逃げ込んでも、襲われる可能性がある。
都防災会議は79年、「大震火災時における火災旋風の研究」という報告書をまとめている。
「数千あるいは数万の避難民を収容する現行避難場所は、果たして火災旋風に対しても安全なのであろうか。これは大地震対策上避けて通れない問題である」と研究目的を述べている。調査の結果、都が指定している避難場所約200カ所のうち、延焼の激しい地域に囲まれる27カ所は「火災旋風の観点からきわめてきびしい環境下におかれるものも出てくる」とした。そのうち、報告書で名前が明記されたのは以下の7カ所。
・大田区 蒲田電車区一帯
・世田谷区 羽根木公園一帯
・新宿区・中野区 哲学堂公園一帯
・中野区 公社鷲宮西住宅一帯
・杉並区・練馬区 上井草スポーツセンター一帯
・板橋区 公社向原住宅一帯
・葛飾区 都営高砂団地一帯
計画ではそこに約31万人が避難することになっている。
※AERA 2013年3月25日号