コロナ禍で注目されるのが、著作権切れの文学作品を無料で公開しているインターネットサイト「青空文庫」だ。昨年の緊急事態宣言期間中は学校が休校となり、家にいる子供に本を読ませたくても、図書館はお休み、多くの書店も休業した。
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この間、青空文庫の利用者数が急増した。青空文庫によると、それまで1日当たり平均8万~11万アクセスで、10万アクセス以下がほとんどだったが、4月の緊急事態宣言発出以降アクセス数が急上昇。宣言初日の4月7日には16万アクセス、その後も12万アクセスを上回り続け、5月1日には最多の21万アクセスに達した。平時の2倍超だ。緊急事態宣言明けの6月以降も平均して4月並みの水準でアクセスがあったという。
顕著に増えたのが童話作品だった。緊急事態宣言前の3月とピークの5月のアクセス数を比較すると、サン=テグジュペリ作「あのときの王子くん(「星の王子さま」の新訳)」が約5倍、新美南吉「ごん狐」は約3倍、グリム兄弟の「ラプンツェル」は約4倍、とグンと増えた。
年間ランキング(右下表)にもコロナの影響が見える。1位の〔雨ニモマケズ〕は昨年よりアクセス数を8万回近く増やしたほか、順位を上げた「山月記」「羅生門」「蜘蛛の糸」は読みやすい短編だった。
青空文庫の運営チームの大久保ゆうさんは「自宅での読み聞かせなどの利用が増えたこともあったでしょう。室内でできる読み聞かせや朗読、『#せいゆうろうどくかい』など声優さんたちの読み聞かせプロジェクト、動画投稿者の方々の盛んな活動など、朗読配信も増えたこともあったようです」と話す。
青空文庫は1997年にフリーランスの編集者・作家の富田倫生氏ら4人が発起人となり、発足。当初は中島敦「山月記」、二葉亭四迷「余が言文一致の由来」、森鴎外「高瀬舟」、与謝野晶子「みだれ髪」の4作が公開されただけだったが、いまでは入力・校正ボランティアの協力のもと、2万点近い作品が収録されている。
ただ、横書きのテキストデータでの表示で読みにくいという欠点もあった。だが現在はソフトやアプリが開発され、その弱点も克服されている。
パソコンやスマートフォンで青空文庫にアクセスし、読みたい作品を選ぶと表示される、作品データ欄の「備考」部分に紹介されている「青空 in Browsers」や「えあ草紙・青空図書館」を活用すれば、読みやすい縦書き、ページめくり機能付きで読むことができる。
なんとも気重にさせられる緊急事態宣言が出されても、コロナの嵐はなかなか去りそうにない。ここは気長に、青空文庫で晴天の出合いを求めるのも一興かもしれない。(本誌・鈴木裕也)
※週刊朝日 2021年1月22日号