このところ睡眠医学界を騒がせている病気がある。眠りながら食べてしまう睡眠関連摂食障害(SRED:スレッド)だ。
 
 30代後半の女性は、朝は8時ぎりぎりまで寝て、朝食を抜いて出社、接客で昼食はきちんと取れず、仕事に追われて夜11時すぎに帰宅、午前1時半ごろ就寝する生活を、10年近く送っていた。

 毎晩のようにベッドで食べている自分をはっきり意識したきっかけは、起床時に周囲に散らばる「状況証拠」とともに、体重が増えだしたからだ。体重を落とそうとジム通いを始めたが、仕事が忙しく続かず、10キロ近く太ってしまった。

 部屋に食べ物を置かないようにしたら、意識がないまま近所のコンビニに「買い出し」に行き、翌朝レシートを見て愕然とすることも。彼氏は、午前3時ごろに「食事」をする彼女の異様な様子に驚かされた。

「睡眠総合ケアクリニック代々木」(東京都渋谷区)理事長の井上雄一医師は話す。

「『寝ぼけ食い』ですね。20代後半から30代の女性を中心に増えています。生活リズムの乱れと寝不足が影響しているケースが目立ち、極めて現代的な疾患です」

「SRED患者が食べるのは、ご飯、麺類などの炭水化物や甘い菓子類が中心で、無意識のうちにカップ麺をつくっていたり、パスタをゆでたりしていた人もいました。調理中にやけどをした、防腐剤を食べかけた、というような危ない事例もあります」(井上氏)

 食べているのは就寝後2時間以内が多く、本人が何も覚えていない場合だけでなく、食べている最中に目が覚めてきたり、食べないと眠れなかったりする症状も見られるそうだ。

 何が原因なのか。井上氏はSREDを、(1)寝ぼけ、(2)体内リズムの乱れ、(3)睡眠薬の飲み過ぎ、の三つのタイプに分類する。1990年代に入って診断基準ができた新しい病気なので確立した治療法はなく、患者の状態を見ながら手探りで投薬治療しているという。

AERA 2013年4月8日号