●物語の主人公「頼光四天王」とは

 平安時代、鬼退治など“怪し退治”話がのちの物語集で語られてもいる源頼光という武将がいた。江戸時代の錦絵に「頼光四天王」という家臣とともに描かれるほどの人気者である。この家臣の四天王とは渡辺綱、坂田金時、碓井貞光、卜部季武だと伝わっている。坂田金時といえば、昔話でも有名な相撲をとる「金ちゃん」こと金太郎であり、最近はテレビCMにも登場している。渡辺綱は、京都・一条戻り橋で鬼の手を叩き切った人話などがいくつも残る強者であるし、生まれが関東だったことからあちらこちらに由縁の地が残っている。史実であるかは疑問もあるが、渡辺綱の生誕地であるとされる港区三田付近には「綱坂」「綱の井戸」などが残り、江戸時代には三田綱町と呼ばれていた。

●「ワタナベさん」に豆まきが不要なわけ

 このように後の時代にも語り継がれるほど脚光を浴びた頼光四天王は「酒呑童子(鬼の頭領)を討伐」した人たちとして、各地に名を残している。退治された酒呑童子が「鬼でもこんな非道はしない」みたいな泣き言を漏らすほど、頼光四天王は鬼にさえ恐れられていたと物語は伝えている。つまり頼光四天王には鬼は寄り付かないのだ。特に叩き切った手をもとに鬼を脅迫するほど度胸の据わった渡辺綱には。つまり、鬼がこない渡辺家には豆まきは不要というわけだ。

 とは言え、渡辺綱が没してすでに1000年近くが過ぎている。鬼もそろそろ渡辺さんの見分けがつかなくなっているかもしれないし、また、今年は憎い疫病騒ぎもあるしで、家から「陰(おん)」を追い出してしまうよい機会になるかもしれない。旧暦で言えば、まだ12月21日で旧正月はまだ10日も先になるのだけれど。日本にはいくつも暦が存在して混乱する。これもひとつの長い歴史を含んだ文化と思えばありがたくもあるのだけれど。(文・写真:『東京のパワースポットを歩く』・鈴子)

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