「病院は具合が悪い人がたくさんいるから、騒ぐとみんな余計に調子悪くなっちゃう。みんなのためにも静かにしようね」というように、子どもがしている行動と、その結果起こる不都合を説明することが正しいのでしょう。
でも、もしそのように説得しても理解してくれず騒いだままだったら、親はどうすればいいのでしょうか? 子育てをしていると、こんなシーンにかなりひんぱんに出くわすと思います。脅し育児をすべきでないと反対する人は、ほかの患者さんに迷惑がかかろうが、わかってくれるまで何度も何度も、正論だけを武器にがんばって戦えというのでしょうか。
■実際の経験がなければ、他人の苦痛を想像するのが難しい子も
子どもは、自分自身に直接的なメリットやデメリットがないのに、目先の遊びたい気持ちをがまんできるほど、全員が全員、忍耐強く聞き分けがいい子ばかりではないのです。
共感する力も発達途中なので、「自分の具合が悪いときに周りに騒がれてつらかった」という実際の経験がなければ、他人の苦痛を想像するのが難しい子だっているでしょう。
騒がないことに対して、自分に与えられるメリットがなくて行動を止められないなら、デメリットを挙げるよりほかにないと思うのです。
幼い子どもは知識も経験則も少ないため、「周りに迷惑をかけない」とか、「しっかり寝かせて成長を促す」といったような行動の先にあるメリットやデメリットを、大人のようには見通せません。「脅す」という言葉はなんとも聞こえが悪いですが……自分も周囲も不利益を被らないよう誘導するためにも、必要な方法であるように思います。
脅し育児によるデメリットの一つに、「脅すという行為のせいで、子どもに恐怖心が生まれて、消極的になってしまう」と書かれていました。
でも現実として、世の中には、「怖いもの」が存在するわけです。それにも関わらず、幼児期にそうしたものを一切見せないよう遮断し、「怖いものなんて存在しないよ」ときれいごとで包み込むことこそ、いかがなものでしょうか。
そもそも、人間がもつ恐怖という感情は、よくないことを察知し回避するために本能として備わっている必要な力です。危険や恐怖を感じることで、徐々に、「こうすべきではない」という選択が素早くできるようになり、成長していくのです。