日本では提供精子による人工授精で子を授かるAIDという方法がある。日本産科婦人科学会(日産婦)に登録するいくつかの病院でのみ受けられる治療法で、匿名の第三者の提供精子を用いた人工授精だが、これを選ぶと「子どもの出自を知る権利」が守られない。そのため、身元開示が可能な海外ドナーから精子・卵子の提供を受ける親も少なくないようだ。AERA 2021年2月8日号では、提供精子・卵子での出産や、「子どもの出自を知る権利」について取り上げた。
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愛知県に住む望月有花さん(37)は11年と13年にタイで卵子提供を受け、息子と双子の娘の親となった。物心がついたときからドナーの写真を見せているので、子どもたちは自身のルーツを自然に受け入れている。
「息子はよくお友達に『俺、半分タイ人なんだよね』と言っています」
と、望月さんは微笑む。望月さんは10代の頃から子宮内膜症を患い、過去に2度手術を受けている。子どもがほしかったので結婚後すぐ不妊治療を始めたが、手術の影響もあり自分の卵子で子どもをもつことは叶わなかった。養子縁組は夫が反対だったため卵子提供を受けようと考えたが、日産婦の方針で国内の病院では治療を受けられない。そこで高校時代に留学したオーストラリアの病院に相談したところ、日本に近いタイでの治療を勧められた。現在はタイ人ドナーから外国人への卵子提供は原則禁止されているが、当時はまだ可能だった。望月さんは自力でタイ語の通訳を見つけ、評価が高い病院での治療にこぎつけた。
担当の看護師からメールで送られてきたドナー候補者は12人。写真とプロフィルを見て3人を選び、現地に行って直接面接をした。最終的に望月さん夫婦がドナーを選んだ決め手は、容貌と真面目な人柄だった。「あなたのことを子どもに伝えていいか?」と尋ねると、女性は「構わない」と言ってくれた。
子どもたちに事実を伝えるのは望月さんにとって自然なことだった。子どものとき親の離婚や再婚を経験し、留学先のホストファミリーとはいまも親しく、家族の概念がもともと柔軟だったからだ。親戚のなかには「子どもがかわいそうだから本当のことは隠し通せ」と言う人もいたが、気にしなかった。