

2019年12月初旬、中国で発生したとみられる新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)は全世界で猛威を振るい、2021年2月12日の時点で感染者数は約1億777万人となっている。
現在発売中の『医者と医学部がわかる2021』では、収束の道筋がいまだに見えないなか、コロナと闘う3人の医師たちの姿を取材した。第1回目、第2回目に続いて3回目は、世界での支援活動に力を注ぐ医師の使命をお届けする。
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新型コロナの感染拡大が全世界におよぶ中、紛争地や途上国などで医療・人道援助活動を行っている国境なき医師団(MSF)は、さまざまな困難に直面しているが、継続して世界での支援活動に力を注いでいる。
■コロナ禍のなかでも、活動は継続させる
MSFはこれまでマラリアをはじめ、結核、エイズ、エボラ出血熱などの感染症とも向き合ってきた。
国や地域によっては、新型コロナ感染における重症化や死亡例よりさらに深刻な疾病が存在する。外科医で国境なき医師団日本の会長を務める久留宮隆医師はこのように語る。
「MSFの活動はもっとも弱い立場にいる人たちへの支援を中心に行っています。日本にいると、平和だった状況が一変して新型コロナ一色になったように感じられますが、我々にとっては、数ある感染症の中の一つ。我々が活動している地域の紛争や疾病は、新型コロナによって終わるわけではなく、医療を待っているのは新型コロナの患者さんだけではない。重要なのはコロナ禍のなか、従来の活動を継続させることです」
新型コロナの難しいところは、感染が全世界に及んでいるということだ。人や物の流れが妨げられ、活動自体の縮小を強いられてしまう。20 年上半期は、日本から64件の派遣を予定していたが、4割強が予定より遅れたり、キャンセルになったりした。
国籍による入国制限や航空便の減便、各国の大使館がクローズになりビザが発行されない、PCR検査の陰性証明がないと渡航できないなど、さまざまな事情で活動が妨げられた。