13年の日本シリーズ第6戦で、巨人・ロペスの挑発行為に怒った田中がマウンド上で言い返し、口論に発展したシーンを彷彿とさせるが、高校野球、しかも、甲子園の大舞台でこんな“喧嘩”が繰り広げられるのは珍しい。
だが、後のプロ球界のスター2人が男の面子をかけて火花をバチバチ散らした場面をリアルタイムで見たファンは、それほど多くないはずだ。なぜなら、この試合を中継していたNHKは、5回表の駒大苫小牧の攻撃終了後にニュースと気象情報を入れており、中継が再開されたのは、中田の次打者のカウント途中だったからだ……。
この日の田中は5回まで大阪桐蔭打線を無安打に抑えており、ノーヒットノーランがどこまで続くか、ファンはテレビの前で固唾をのんで見守っていた。また、5回裏終了後にはグラウンド整備で試合が一時中断するのに、「あと数分」を待つことなく、よりによって、中田との対決をスルーしたのは、残念な判断と言わざるを得ない。
ところが、それから12年後の17年8月3日にNHKで放映された「高校野球“真夏の熱球”スペシャル」で、この“幻のシーン”がクローズアップされ、“駒苫・田中伝説”の1ページに加えられることになった。
高校時代にはもうひとつ、田中の負けん気の強さを物語る象徴的なエピソードがある。翌06年10月2日、兵庫国体準々決勝、鹿児島工戦での“代打男”今吉晃一との対決シーンだ。
今吉は同年夏、代打の切り札として打席に登場するたびに、相手投手に向かって「しゃあーっ!」と鋭く気合を発し、県大会から甲子園の準々決勝まで通算9打数7安打と大当たり。この時点では、優勝投手になった早稲田実の“ハンカチ王子”斎藤佑樹(現日本ハム)より人気があった。
準決勝で実現した斎藤との対決では、フルカウントから空振り三振に倒れた今吉だったが、直後、斎藤がマウンドで勝利の雄叫びを上げるほど、気迫と気迫がぶつかり合った好勝負だった。
だが、国体で対決した田中の気迫は斎藤以上だった。