2点を追う7回無死、代打として打席に立った今吉は、いつものように気合を発したが、負けじと田中もスイッチが入る。雄叫びを上げながら5球続けて直球を投げ込み、最後はスライダーで見逃し三振に打ち取った。
蛇ににらまれたカエルのようになった今吉は「おしっこ、ちびりそうでしたよ。田中、『うりゃー!』って吠えてましたから。金剛力士像みたいでしたね。あんな速い球、見たことない」(「一打席入魂 プロ野球代打物語」別冊宝島編集部編 宝島文庫)と脱帽するしかなかった。
一方、田中は負けん気を前面に出しながらも、「今までにないタイプで面白かった」と対決を楽しんでいた。そんな打者に向かっていく気迫は、今も健在だ。
「正直(24勝0敗の)2013年で皆さんの印象は止まっている部分はあると思うので、すごく求められている部分は、ハードルは高いというふうに思っているが、そこをまた飛び越えてやろうというところも自分の中ではやりがいのひとつ」と、今季は“過去の自分自身”に対して負けん気を見せる田中。中田との再対決も含めて、久しぶりに投手と打者がタイマンを張るような熱い野球を楽しめそうだ。(文・久保田龍雄)
●プロフィール
久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」(野球文明叢書)。