週刊朝日が全国の高校の国公立・私立54大学医学部の合格者をまとめたところ、今年は西日本、その中でも特に兵庫県の灘高校の躍進が目立った。大学入試の最難関といわれる東大理III(医学部に進級。定員100人)に、27人もの合格者を出した。

 灘はなぜ、これほど医学部に強いのだろうか。

 灘は中高一貫の男子校で、生徒の大半は中学から入学する。受験関係者が口をそろえるのが、「そもそも理数系に強い子が全国から灘に集まってくる」ということだ。灘中学の入試問題に詳しい、関西の大手中学受験塾、浜学園の橋本憲一・学園長もこう語る。

「算数が苦手だったら、灘の入試はまず通りません。入試の段階で“理数系に強い子”を選抜しているという印象は強いです」

 灘中の入試の配点は、算数200点、国語200点、理科100点の計500点満点で、社会を課していないのが特徴だ。ちなみに首都圏の進学校である開成や麻布、筑波大附属駒場などは、入試科目に社会がある。

 理数系の配点が高いだけではない。灘中入試は算数が難しいことで知られる。算数の試験は2日間にわたって実施され、1日目は難しい計算問題13問ほどを50分で解き、2日目には文章題5問ほどを60分で解く。こちらは答えだけでなく、解き方も含めて採点される。

「特に1日目、1問を3~4分で解くのは大人でも大変です。より最短で、より正確な解き方はないかと考える姿勢が重要です。難しい問題を解けて、さらによりよい解き方を追究する向上心がある。合格する子は、この姿勢が中学入試の段階で身についているといえます」(浜学園の橋本学園長)

 この難関をかいくぐって入学してきた生徒たちを待つのが、灘独特の授業だ。同校の進路指導副部長、中西健介教諭はこう話す。「教室には特注サイズの大きな黒板が前後にあり、数学の授業では、それをフルに使います。前に4問、後ろに4問書き、生徒に解かせ、それを先生が解説していきます。黒板が1枚だと4問しかできませんが、2枚あれば、50分の授業で倍の8問できますよね」。

 この数学の授業を懐かしむOBは多い。「黒板で生徒が問題を解くと、先生がダメ出ししたり、講評するんです。ときには絶賛することもあります。数学が天才的にできたクラスメートがいたのですが、その子の解答を先生が見つめること10秒。『美しい!』と拍手するなんてこともありましたね」(93年卒)。

週刊朝日 2013年4月26日号