「人間はあまりに健康不安を持ちすぎると、ストレスによってかえって健康寿命そのものに悪影響を及ぼします。普段、健康な人の血中酸素飽和度が急に93%以下になると確かに苦しい。肺炎が起きていると見るのは間違いありません。けれども例えば肺気腫の患者さんらは、普段から60~70%という人もいます。あたかも93%以下が生命に危険が迫るような値と勘違いされています」
コロナ感染症は基礎疾患のある人は重症化するリスクが高いとされ、コロナワクチンの優先接種の対象になる。基礎疾患とは、慢性の呼吸器疾患、心臓病(高血圧を含む)、腎臓病、糖尿病、がんなどだ。こうした病気にならないためにも、定期的に健診や人間ドックを受け、早期発見・早期治療につなげたいと多くの人が思っているはずだ。
しかし、検査項目によっては日本が定めた「正常値」が欧米の基準とは異なるものもあり、うのみにするのは問題がありそうだ。中原医師はこう警告する。
「健診や人間ドックは釣り堀なのです。健康な人を釣り上げて、患者にして病院に来てもらうための手段になっている。日本の検査の正常値はおかしいものが少なくありません」
その最たるものの一つが血圧だ。正常値の範囲が厳しすぎると、かねて指摘されてきた。日本高血圧学会は、2019年に高血圧の新基準を設け、正常の範囲を厳格化した。正常値は収縮期120mmHg/拡張期80mmHg未満とし、降圧目標は74歳以下は130/80未満、75歳以上は140/90未満と設定した。
その結果、日本の高血圧患者は4300万人に上ると推定されている。高血圧を放置していると脳卒中や心筋梗塞(こうそく)の原因になるといわれる。だが、中原医師はこう疑問を投げかける。
「日本人の平均寿命は世界でもトップクラスなのに、これほどの人が病気にされる『正常値』なんて異常というほかありません」
同学会の00年のガイドラインでは、収縮期について「60代140」「70代150」「80代160」などと、年齢ごとに数値を設けていた。ところが、現在の基準では80歳以上は「140」としており、20も下げなくてはならなくなったのだ。