前中日ドラゴンズ監督の落合博満氏(59)は今プロ野球界再編のため、「オレ流」3リーグ案を提案しているという。
落合案では12球団を予備抽選、本抽選によって三つのリーグに振り分ける。そして12球団総当たりで12回戦を戦う。これでレギュラーシーズンは132試合になる。13回戦にすれば現状より1試合だけ少ない143試合だ。
当然、現状のクライマックスシリーズから、ポストシーズンの仕組みも変わる。各リーグの優勝チームの中で、勝率2位と3位の球団が対戦。勝率1位の球団は、残り9球団の中で最も勝率の高い球団、米大リーグで「ワイルドカード」と呼ばれている球団と戦う。そして勝者同士が日本一をかけて戦うのだ(すべて4戦先勝制)。
落合氏はリーグ名には言及しなかったが、巨人、ヤクルト、DeNA、ロッテ、西武が固まれば「首都圏リーグ」、阪神、オリックス、広島、ソフトバンクの「西日本リーグ」。はたまた、DeNA、ソフトバンク、楽天が集まれば「ITリーグ」、ヤクルト、日本ハム、ロッテが集えば「お食事リーグ」などとファンは呼ぶだろう。なかなか興味深い。
西武ライオンズなど3球団で球団代表を歴任し、『プロ野球血風録』(新潮社)などの著書がある坂井保之さんは落合案を眺め、「プロ野球の新しい切り口として大賛成です」と受け止め、続けた。
「ただ12球団総当たりは組み合わせが複雑になり、ファンの理解が追いつかないかもしれない」
弱小球団ばかりのリーグができる懸念もある。日米の野球に精通する慶大名誉教授の池井優さんは、こう語る。
「日本では1950年から続いてきた2リーグ制が染みついている。3リーグ化はファンの共感が得られないと思います。まず、3リーグにする強い理由が見つからないですから」
池井さんは続ける。「そもそも、リーグ再編より、フランチャイズを見直したり、野球熱の高い四国に球団をつくるほうが先決でしょうね。大リーグには、優勝しなくても客を呼べる球団がいちばん素晴らしいという格言があるんです。強くもなくスターもいない中で集客するためにはどうするか。野球ファンをどれだけ増やすか。それはファンサービスに頭を使い、きめ細かくする。そこが腕の見せどころなんですね」。
そして、池井さんが「日本が学ばなければならない」と強調するのが、大リーグの「共存共栄」の精神だ。戦力均衡のため、年俸総額が一定額を上回った球団は大リーグ機構へ課徴金を納めなければならない。ドラフトは完全ウエーバー制。テレビの放映権科はコミッショナーが一括管理し、各チームに分配する。「ひとり勝ち」のチームが君臨してきた日本球界には耳の痛い指摘だろう。
緻密な落合氏のこと、「落合秘案」を完璧な提案ではないと自覚しているに違いない。そこでなぜ、あえて言うのか。落合氏の講演会での発言を拾ってみよう。
「いまの野球がおもしろくないとか、変えなきゃいけないと言うOBの方がいる。でもどうやって変えりゃいいの? そういう方法論を、俺は目にしたことがない」
「野球界がおもしろくないという意見があるんだったら、ここまで崩して新しいものを作り上げるのも一つの方法論かな、と。いまあるものを残しながら、まるっきり違うものを作り上げようとしても無理なんだ」
だれもやらないじゃないか。だから俺が言うんだ――。そんな心意気がビシビシ伝わってくる。
「実現の可能性はともかく、発想のパターンとしての一つの提案ですよね。それでいい。一般のファンに対してというより、コアな野球人への問いかけです。みんなでこういう議論をしてほしい、と。さすがです」(前出の坂井さん)
野球ファンの間には長らく、「落合コミッショナー待望論」がある。こんな落合氏がトップになれば、旧態依然とした日本のプロ野球も変われるだろうか。坂井さんは話す。「落合さんは、いつもだれよりも深く球界の問題を考え、愛情も持っているし、独自のアイデアも持っている。ただ、コトバがね。この人のコトバはぶっきらぼうすぎて理解されにくい。彼の示す符号を咀嚼(そしゃく)してブラッシュアップする理解者や支持者が出てきたら、おもしろいですね」。
いつの日か、「落合コミッショナー」が、日本プロ野球を救ってくれるのだろうか。
※週刊朝日 2013年4月26日号