だが、あらかじめ、どんな医療を受けるかを選択しても、実際にはそれが医療の場面に適さないことが往々にして起きた。救命に必要な人工呼吸器の装着や治療効果を上げる目的の一時的な胃ろうの設置を医師が勧めても、「本人は嫌だと言っていました」と家族から拒まれることがある。
本人が意識を失いかけているようなときに家族がそれを冷静に判断することは容易ではない。
そこで、人生会議では、どんな場面でも適応できるように「その人の価値観」を聞いておくことに変更された。
人生会議の四つのステップの後半は「意思決定」と「意思実現」だ。
(3)意思決定=最期を迎えるときの場所やどんな治療やケアを選べばいいかを本人が決めること。あるいは、意識がなくなったときは、周囲が代理で決めること。
このとき、前出の小澤医師はこう注意する。
「社会では『一度、意思を決めて伝えたら変えられない』と誤解されています。人間の気持ちはファジーで、いくらでも変わりうるものです。だから、人生会議で大切なことは『1回で決めない、一人で決めない、医療者の言いなりにならない』、これが大切です」
最後の(4)意思実現は、家族、医療者、介護関連職などが本人の意思を遂行すること。
本人の希望がかなうかどうかは、そのときの地域医療の状況、家族の介護力や気持ち、介護サービスをどのくらい使えるかの経済力などに左右される。それでも、誰にも何も話していない状況よりは、人生会議をしておいたほうがいい。最期まで自分の人生を作り上げられ、医療者や介護スタッフも希望に寄り添うことができるからだ。
以前は「終末期」と呼ばれていたが、厚労省はこの時期を「人生の最終段階」と変更し、18年、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」の改訂版を発表した。人生会議はそのメインの取り組みで、地域で実践していくために14年度から医療職や介護関連職への研修を続けるとともに、近年は市民への普及啓発へも力を入れている。