新型コロナウイルス感染拡大によって、限りある命の大切さを改めて意識した方も多いのではないか。こんなときだからこそ、人生の最期の時期についての思いを聞き、かなえるためのプロセス「人生会議」について考えてみたい。自分が思い描く人生を生ききるために──。医療ジャーナリストの福原麻希氏が事例をもとに解説する。
【写真】「みんなの保健室」での雑談は、のちの人生会議の言葉のかけらになる
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娘家族と同居する90代の女性は「もう、いつお迎えが来てもいいのよ」と口癖のように話す。ところが新型コロナウイルスの感染拡大が長引くにつれて、「新型コロナでは死にたくない」と言うようになった。
食事中、ふとしたことで娘は女性のささやかな希望に気づく。それは「家族の手を握りしめながら、最期のお別れをすること」。だから、感染の状況次第では見舞いができない「新型コロナでは逝けない」わけだ。
娘は「えっ、お母さん、そんなことを思っていたんだ」と驚いた。いまでは、その時が来たら、母親の希望だけはかなえようと心に決めている。
こんな日常生活での気付きも含めて、「人生の最期の時期について、本人の思い(意思)を聞き、かなえるためのプロセス」は、医療や介護の現場で「アドバンス・ケア・プランニング」(Advance Care Planning=ACP)と呼ばれている。厚生労働省が2018年、「人生会議」と愛称を決めた。積極的に取り組む行政なども増え、広がりを見せている。
人生会議(ACP)とは、あらかじめ、家族、友人、医療者、介護関連職に、自分の人生の目標や「こういうことをしたい」という希望、価値観(人生観や死生観、大切にしたいこと、譲れないことなど)、気がかりなことを伝えておくこと。
そして、それらの情報をもとに、いざというとき、「どんな治療やケアを選ぶか」「療養場所をどこにするか」を決めるだけでなく、「最期の時期をどう過ごしたいか」「どのように生きていきたいか」を考え、実現していくことだ。