一方で、むやみな厳罰化は逆効果であるとも指摘する。
「犯罪心理学の分野では、厳罰にすると逆に犯罪率や再犯率がわずかに上がるというエビデンスがあります。政治家も一般の人たちも犯罪や逸脱行為に対して罰という対処しか思いつきにくいのですが、対処の方法はある。私が常に述べているのは治療や福祉、教育などヒューマンサービスと呼ばれるものです」
わかりやすい事例が、薬物犯罪に対する罰則のあり方だろうか。国内ではちょうど1月に大麻の規制に関する検討会が立ち上がったばかりだ。
現在、大麻取締法で罰則を設けているのは「所持」や「栽培」についてで、「使用」は対象とはなっていない。神社のしめ縄などに使う大麻草を合法的に栽培している農家の人たちが、作業中に成分を吸い込む可能性などに配慮しているとされる。
詳細は省くが、海外では医療用大麻の効果を評価して規制を緩める方向に向かいつつある、というのが一般的な理解とされている。一方、国内では検討会を立ち上げて医療用大麻の是非についてだけでなく、「使用」に罰則を設けるかどうかも検討の対象としている。
メディアを通じて反対の声を上げている亀石倫子弁護士が重視しているのは、大麻の使用に被害者がいないことだという。このため、規制薬物の使用を犯罪としてとらえるのではなくて、個人の健康問題、社会の問題と受け止め、どうしたら薬物に過度に依存せず健康を維持し、経済的な問題や家庭の問題などを解決できるかを支援するような方法が必要だと考えている。
亀石弁護士は指摘する。
「犯罪者としてレッテルを貼って社会から排除することのほうが、その人や社会にとってのデメリットが大きい。大麻使用罪創設の議論は、取り締まる側の思惑だけで進めてはいけないと思っています」
■ルールの設定で「拘束」
評論家の荻上チキさんも、同じ考えだ。どんなデメリットがあるのか。
「長い懲役で社会から遠ざけることによって社会復帰はより困難になり、場合によっては旧来の仲間のところに戻っていく可能性もあります。社会との接点を切らすのではなくて、人為的に接点を作れるような形にすることが大切です」