その頃、動物殺傷罪が「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」で、器物損壊罪より軽かったのを知った。協会ではその後、厳罰化を求める署名活動を展開し、改正動物愛護法は実際に19年6月に成立。「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」になった。

 殺しても大した罪にならない──。事件当時、そうした傾向がある人たちが集うサイトに、こんな言葉が書き込まれていたのを杉本さんは確認した。

「厳罰化ですべての問題が解決するとも思っていませんが、こうした層には抑止力が期待できるかもしれません」

 こうしたやむを得ないと思える厳罰化の一方で、行き過ぎとも捉えられるケースが出てきている。厳罰主義への傾向については、立命館大学の富永京子准教授が注目しているデータがある。シノドス国際社会動向研究所(東京)とともに新型コロナに関連して昨年10月に行った意識調査の結果だ。

■公的な存在に介入期待

 全国の6600人から回答を得た調査で、自粛や休業の要請に従わない事業者に「貼り紙を貼って『活動をやめろ』と警告すべきだ」「店名をツイッターで広めてもいい」と考えるのがそれぞれ約1割だったが、約4割は「メディアはもっと注意を呼びかけるべきだ」、3割超が「自治体は店名を公表するべきだ」と考えていたという。

「つまり、自分たちの間で“警察”をやるのは問題があると思っている一方で、特に喫緊の課題に対しては公的な存在に介入してなんとかしてほしいという、厳罰主義的な感覚が強く表れているのだと解釈しています」(富永准教授)

 筑波大学の原田隆之教授(犯罪心理学)は、厳罰主義の背景として、(1)社会で被害者が声を上げる機会が増えた、(2)SNSなどで犯行現場が可視化され感情がかき乱される機会が増えた、(3)もともと処罰する法律がなかったり刑罰が不十分であったりした、の3点を挙げた。

 あおり運転の罰則などは、(2)や(3)の典型的なケースだろう。ただ、厳罰方向への変更とはいえ、男性目線で作られた古い法律が現代の実情に合わないことから刑罰の重さを引き上げているケースなどは、「厳罰化」ではなく「適正化」だと原田教授は考えている。性犯罪などの「適正化」がそうだ。

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