「毒舌芸人から司会者への華麗な転身」と言われることもあるが、有吉の本質は何も変わっていない。与えられる立場に応じて、必要とされる仕事をこなしているだけだ。
それは上島竜兵などの親しい先輩芸人との付き合い方にも表れている。有吉は、テレビなどの表舞台では先輩の上島を厳しくこき下ろしたりするが、一対一で飲みに行ったりしたときには、礼儀正しくかわいい後輩として振る舞うのだという。こうやって裏表を使い分けていると、表でどんなにひどいことを言っても「有吉は裏では俺を尊敬してくれているんだ」と思ってもらえる。
これだけなら有吉は戦略的でいやらしい人間だということになるかもしれないが、実際には有吉はそのように思われることはなく、先輩にはかわいがられ、後輩には慕われている。誰もが「表では見せない裏の部分を自分には見せてくれている」と思うように振る舞っているからだ。
有吉には裏表がないのではなく、表しかない。どう見られているか、どう思われるか、それがすべてだ。「みんなに見てほしい自意識」のような余計なものを持っていない。だからこそ、テレビタレントとして最強であり、長きにわたって求められる存在となっているのだ。
有吉弘行という人間の中心には巨大な空洞があり、かかわる人々の声だけがそこに反響している。有吉と結婚した夏目もきっと「表では見せない裏の部分を私には見せてくれている」などと思っているに違いない。それは、有吉が不誠実であるわけではなく、文字通り正しいことなのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)