つまり、減ることがないが、増える財産なのです。そして、この財産は子孫だけに残したものではなく、今の時代に生きている我々全員に残したものです。

 自分自身が生の渋沢栄一の言葉に触れたとき、最初に衝撃を受けたのが「元気振興の急務」という明治末期の講演禄です。現在と比べて元気が溢れていたとき。これが自分の明治時代のイメージでした。ただ、栄一は嘆いています。

『頃日来社会の上下一般に元気が銷沈して、諸般の発達すべき事柄が著しく停滞し来たやうである。これは要するに社会が稍々秩序的になつた共に、人々が何事にも慎重の態度をとるやうになって来たから。』

 ん?これは自分がイメージしていた明治と異なります。

『其の日其の日を無事に過されへすればそれでよいといふ順行のあるのは、国家社会にとつてももっとも痛嘆すべき現状ではあるまいか。』

 まるで、現在の事なかれ主義と全く同じであることに驚きを覚えました。

『我国の有様は、是迄やり来た仕事を大切に守って、間違いなくやつて出るといふよりも、更に大に計画もし、発展もして、盛んに世界列強と競争しなければならむのである。』

 勇ましい言葉です。「論語と算盤じゃ、皆、仲良くしよう」というイメージの穏やかな人物の口から出るような言葉ではない。

 渋沢栄一の言葉を読み返すと、このように怒りを感じることが多々あります。それは、もっと良い社会になれるはずだ、もっと良い会社になれるはずだ、もっと良い経営者や市民になれるはずだ。つまり、現状に満足していない、未来志向があるからです。渋沢栄一は、見えない未来を信じる力を持っていました。

 このコラムを通じて、渋沢栄一が残した古い時代の言葉を、今の時代に合わせながら、日本の現状、そして未来について読者の皆さまと一緒に考えたいと思っています。

 現在の日本は時代の節目に立っています。これまでの10年、20年、30年と比べると、これからの10年、20年、30年の日本社会の有り方は全く異なる可能性が高いと思っています。

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なぜ、いま渋沢栄一なのか?