資料には、経緯として、両家の家族構成と各人の職業、性格等から、両人の生育歴、交際に至った経緯、結婚にまつわるエピソード、結婚後のいくつかの事件(夫の実家にお歳暮を送るか否かでもめたことや、妻が友人の子どもが苦手だと言ったことをたしなめたことなど、些細なきっかけでけんかになり、最終的に妻が狂乱したとか情緒が不安定になったというエピソード)、現在の両者の主張などが詳細に書かれていました。

 それに加えて、(1)妻の心理状態の解説(自分は異常だと思うが、そうだとしたらその診断名と原因)、(2)自分の身の振り方を含めた妻へのベストな対処方法、(3)妻の心理状態を改善してほしい(ないしは改善できる場所を紹介してほしい)というカウンセリングへの目的も書かれていました。

 知識と対処を求めておられるのは、カウンセリングにおいでになる方の当初の希望としては一般的なものです。

 10枚近く文字と表でぎっしり埋まった詳細な資料を事前にきちんと準備されていることから、(当然仕事でも同じことをされていると思われるので)仕事ができる方なのだろうと予想できます。また、この資料を作成した労力は相当なものであると想像できますので、状況を改善したい気持ちは強くおありだろうとも推測できました。

 しかし、残念ながらこの能力とモチベーションのおかげで顕さんが望むようにカウンセリングがスムースに進むかは別の問題です。

 顕さんが想定している枠組では、上級者がユーザーサポートに状況を詳説して、対応策を教えてもらうのと同じなので、メールでアドバイス(情報提供)すれば十分なはずです。しかし、長年カウンセリングをしてきましたが、それで事足りるケースは一つもありません。というか、そんな魔法のようなアドバイスはできません。

 ご夫婦がおいでになり、妻の様子を観察します。妻は不安そうな様子です。それはそうでしょう。「妻に問題がある」という前提で、夫が選んだカウンセラーのところに連れてこられたのですから。

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妻は「相談したいことは?」に何も答えず