顕さんにお聞きしました。

「話の構図、わかりましたか?」

 顕さんは、

「わかりました……けど……どうしたらいいか全然わかりません。親を無視しろってことですか?」

 相変わらず、対処方法を求めています。

 そんなこんなしているうちに、ユーザーサポート的な枠組みからすれば全く何も進展がない状況ですが、時間なので最後に感想をお聞きすると、顕さんは、

「どうしたらいいのか全く分かりませんが、でも、何かいい話ができた気がします。何かすごく変なんですけど、何も問題が解決していないのに、なんかちょっとすがすがしいというか、安心したというか……瑠香と生きていけそうな気が……」

 といって泣いてしまわれました。

 カウンセリングは、情報や知識を提供する場所ではなくて、主には、こうした「体験」を提供する場所です。相談内容の資料をいただいて、メールを返送することで「体験」を提供することは不可能です。電話やZoomならどうかというと、多少ましではあるのですが、いずれにしても、これらのメディアを使うと、情報と知識をやり取りするコミュニケーションになりがちで「体験」が難しいのです。

 動画配信の方がコンテンツのクオリティが高かったり、無料だったりするのに、あえて時間とお金と労力をかけて音響効果の悪いライブに行くのは、人には「体験」が大きな意味を持つからです。

 顕さんが対面という一番体験をしやすいコミュニケーション手段を使いながらも、仕事の癖が出て、夫婦の問題解決にも、体験ではなく、知識と対処のコミュニケーションをしてしまいがちなのと同じように、ITのメッセージングツールを使うシチュエーションは知識と対処のために事が多いので、無意識のうちにコミュニケーションから情緒や体験を遠ざける習慣づけがなされる傾向があります。

 動画配信でいろいろなアーティストのライブを簡単に見ることができるようになっても、「推し」のライブには足を運ぶというようなメリハリをつけるのと同じように、スマホでやり取りされる幾多のコミュニケーションの中でも、夫婦のやり取りだけは「ライブ感」を体験しながらするのがおすすめです。

(文責・西澤寿樹)

※事例は実例をもとに再構成してあります。

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