菅政権としては一日も早く国会を閉会し、ワクチン接種を拡大させ支持率上昇を狙う (c)朝日新聞社
菅政権としては一日も早く国会を閉会し、ワクチン接種を拡大させ支持率上昇を狙う (c)朝日新聞社
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 菅義偉首相の目玉政策、ワクチン大規模接種が東京と大阪で始まった。それでも、東京五輪開催をめぐる問題で支持率回復は難しいとの声が出ている。AERA 2021年6月7日号から。

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 当初の計画では、現在の会場での大規模接種は24日から3カ月としている。しかし、東京と大阪で1日あたり計1万5千人の接種が成功したとしても150万人。全体の「およそ1%」に過ぎない。防衛省が28日に発表した東京会場の予約状況について、5月31日~6月6日の接種分として用意した7万人分は全て予約済み。ただ各自治体で始まったワクチン接種との二重予約も相次いでいる。ワクチンそのものの供給は増えてきたので、今後は自治体によって接種の早さは明暗が分かれそうだ。

 ある政府関係者は、「あくまで自治体でのワクチン接種が本丸だ」としつつ、「政府がワクチン接種の旗を振っている感が伝わればいい」と語り、広報の面でも各省庁に比べ社会への影響力が大きい自衛隊への期待を寄せる。

 しかし、菅政権が窮地に立たされていることに変わりはない。中でも国際オリンピック委員会(IOC)のコーツ副会長が「緊急事態宣言下でも東京五輪は開催する」と記者会見で断言したことで、日本国内の「五輪中止」の世論はさらに高まった。

 過去に政府の要職を経験した国会議員の一人は、菅首相がこの主権侵害にもつながりかねない「コーツ発言」にまともに答えることができない状況では、結果として政権支持率が上向くことは難しいだろうと予測。IOCが東京都などと結んだ開催都市契約の中で政府が五輪中止の決定にどう具体的に関与できるかははっきりしないとした前提で、こう続けた。

「もし、菅総理が本当に五輪を中止する気があれば、選手団の入国を拒否すると言えばいい。ただ、その覚悟がないだけ。国民の命と安全を守る当事者は日本政府であり、主権侵害につながりかねない事態を政府は放置してはならない。そんなにIOCは偉いのかとさらに国民は反発する」

 五輪とワクチンに翻弄(ほんろう)される菅政権──。予定されている7月23日の開会式まで残り、あと53日しかない。(編集部・中原一歩、福井しほ)

AERA 2021年6月7日号より抜粋