――コンプレックスをポジティブ語るという発想はどこから?
小学校2年生のときに『スイミー』という絵本を見て感動したんです。赤い魚たちの中に1匹だけ黒い魚がいて、“これ私じゃん!”って(笑)。当時から男の子の集団にも女の子の集団にもなじめなくて、先生からは「男の子と一緒に外で運動しなさい」と言われることもありました。そんなの嫌だったから教室でずっと絵を描いていました。
絵本のスイミーは、物語の最後で、赤い魚の群れの中で黒い自分が「目」になることを思いついて、天敵の大きな魚を追いやった。じゃあ私の場合、どうしたらクラスという群れの中で「目」の役割ができるのか考えて、他の子がやりたがらなかった遠足のしおりや校内のポスターの絵を描いたんです。それまでは絵を描くのがそんなに好きじゃなかったんですが、建築の道を志すようになったのもその延長だったと思います。
――もし就活生のときにカミングアウトしなかったら、今どんな日常を送っていると思いますか?
私が今もし男性として社会人になっていたら、ジェンダーのことに気が取られて、仕事に集中できていなかった気がします。自分がどういうジェンダーで生きたいのかは、健康で、よく眠ることができて、最低限の生活基盤があるのと同じで、基本的なコンディションの一部。それが欠けていたら寝不足で仕事するのと一緒だと思うんです。そういう意味で、今は自分の力を発揮しやすい環境で働けていると感じます。
――楓さんは社会人になった後も、LGBT就活生をサポートする活動に参加されていますね。
私が就活していたとき、トランスジェンダーの立場で就活した体験談を聞ける仲間がいなくて困っていたんです。もっと若いLGBT当事者には就活でそういう大変な思いをしてほしくないし、ジェンダーを理由に夢や人生をあきらめてほしくなくて。
大事なのは、自分がどういう人間であって、その上で社会に何を残したいかを考えること。でも就活の障害としてLGBTの課題があると、それが解決されるまでは自分がどういう将来を選択したいのか正しい判断がしにくい。