AERA 2023年2月6日号より
AERA 2023年2月6日号より

 現状では実力差も大きい。全国の強豪校が集まる出雲駅伝、全日本大学駅伝でも例年関東勢が上位を独占する。去年の出雲駅伝では関西学院大学が関東勢の一角を崩して10位に食い込んだが、上位10選手の1万メートル平均タイムで見ると関東の上位~中堅校との差は小さくない。

 尾方監督もこう続ける。

「現状では我々と関東の大学とは選手層の厚さも全く違います。箱根駅伝の本戦出場を目指す関東の大学では、経営陣が大学の方針としてそれを目標に定め、数年がかりで強化に取り組んでいます。100回大会だけ全国化されても真剣に本戦を目指せる地方大学は多くないでしょう」

 この格差の背景を、陸上解説者の金哲彦さんはこう解説する。

「箱根駅伝が全国的な人気コンテンツとして定着し、子どもたちにとっては『大学長距離と言えば箱根駅伝』になっています。有力な高校生はこぞって箱根を目指せる関東の大学に進学する。予選会に挑戦する地方大学もあるかもしれませんが、はっきり言って『記念受験』以上のものにはならないと思います」

■恒久的全国化に期待感

 現在のところ予選会の門戸が全国に開かれるのは100回大会のみで、101回以降は未定だという。1回限りの全国化では地方大学が本戦出場権を取れる可能性はほぼないと金さんはみる。

「本当に地方大学に箱根に挑戦してほしいと考えているならば、今後ずっと全国化すると表明するしかない。仮にそうなれば地方大学の経営者も陸上長距離により大きなリソースを振り分けるようになる可能性があります。数年後にはおもしろい展開になってくるでしょうし、陸上長距離の裾野拡大にもつながるかもしれません」(金さん)

 箱根駅伝の恒久全国化を望む声は、関東の関係者からも上がる。青山学院大学の原晋(すすむ)監督は、1月4日に出演したTBSの番組で「未来永劫(みらいえいごう)全国化することによって、陸上界の裾野が広がる。サッカー、野球に身体能力の高い選手が集まるのではなく、箱根を目指す多くの若者が全国から育つ。そんな文化が結果として日本長距離界の発展になる」と期待感を口にした。

 恒久的な全国化は関東学連の上部団体である日本学生陸上競技連合などとの調整も必要だ。関東学連の有吉正博会長(帝京科学大学特任教授)も、今回の全国化はあくまで100回を記念するものだと言う。それでも、あの箱根路を全国各地の強豪大学が競い合う絵を夢想する陸上ファンも多いだろう。

 有吉会長が「正月に行われる箱根駅伝は(春からの)本格的な陸上シーズンに向けたスタートでなくてはならない」と話すように、駅伝はオフシーズンの強化手段でもある。箱根駅伝創立の理念でもある世界で戦える選手を育てるために、箱根駅伝の行く末に限らず、大学長距離界全体を俯瞰(ふかん)した取り組みが求められる。(編集部・川口穣)

>>【前編の記事】箱根駅伝なぜ全国化? 「100回を機に原点に立ち返りたい」関東学連会長の思い

AERA 2023年2月6日号より抜粋

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