局アナとして番組アシスタントも務めてきた堀井さん。中でも印象深いのは、TBSラジオで2020年6月まで放送された「久米宏 ラジオなんですけど」での久米さんとの掛け合いだ。

「久米さんは安直な言葉で語らない人ですから、一体何を指しているのか、本当は何を言いたいんだろう、と聴きながら考えさせられる番組だったと思います。最後の放送のエンディングで久米さんは『よくついてきてくれました。僕はクセがある人間なんでね。聞く人もクセがあったと思いますが』とおっしゃいました。久米さんの癖についてこられた、自分の頭で考えられるリスナーが支えてくださった番組だったと思います」

 アナウンサーはニュースを客観的に伝えるのがベースだ。それでも、伝えるスキルが身につけばつくほど、「自分で何かを伝えたい」という葛藤が生じるという。

「ニュース原稿の中の一言や、言葉と言葉の間の空け方で、視聴者にも気づかれないぐらい、ほんの少し色をつけたい、という欲望が出てくるんです」

 忘れ難いニュース原稿がある。東京都渋谷区円山町で東京電力に勤務する女性が殺害された事件で、ネパール人のゴビンダ・プラサド・マイナリさんが逮捕されたときのことだ。

「この人が犯人かもしれない、と思いながら原稿を読んでしまった記憶があります。今もすごく悔やんでいるんです」

 一貫して無実を訴えたマイナリさんは、15年の拘束期間を経て、12年に再審請求が認められ無罪になった。

■菅前首相は「間の名手」

 とはいえ日常生活では、伝えたいことがうまく伝わらないことのほうが多い。「力のある言葉」は何が違うのか。

 まずはイメージすることが大切だと堀井さんは言う。例えば、「高い山」と言うときは、頭の中でどれくらいの高さかイメージしてから口に出してみる。さらに一段踏み込んで、相手の言葉や文章の裏に隠された奥深い感情についても考えてみる。本当にその人が言いたいことは、言葉では言い表せていないことが多いからだ。その上で、「相手の側に立っている」と感じさせる話し方をするのが最も重要と堀井さんは唱える。

「思ったことをすぐに口にするのではなく、相手はどう受け止めるだろう、と頭の中でいったん反芻(はんすう)してから言葉にすると、より伝わると思います。その意味でもやっぱり、『間』は大切なんです」

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