堀井さんは最近、「間の名手」に会ったという。なんとあの菅義偉前首相だ。

「先日、ある場所で司会をさせていただいた際、生で菅さんのお話を1時間通して聞く機会があったんです。今までメディアを通して見ていた、菅さんのイメージが変わりました」

 菅さんの間の取り方はプロの堀井さんをも唸らせた。

「間の取り方が普通の息づかいの間じゃない。間が長くて待ち切れなくなる、ちょうどそこで、また話し出すというのが何回も続くんです。最初はこの間、独特だなと思ったんですけど、最後には魅了されていました。同じ秋田出身で、話の音色やテンポの波長が合ったことも理由かもしれません」

 聴衆が聞いて理解したところで次に進む。自分の間で勝手に話を進めない、ということだ。

「間って長くていいなって思います。その間に相手も考えるし、時間を共有したいと思えるようになる。すごく静かな何もない時間って、会話の中でとても重要だと思います」

■生き方に軸のある人

 堀井さんにとって言葉は「育てるものでありたい」という。

「言葉によって言葉を深く考えさせられる。そうやって育てていけるものだといいなと」

 今の座右の銘は「諸行無常」。これはフリーランスになってからの心境を反映している。

「変化していくのも苦じゃないし、いつでも好きなように方向転換できて、ふらっと消えることもできる。会社員時代とは違う、そんな歩き方を楽しんでいます」

 12月2日に三浦綾子原作の「母 小林多喜二と母セキ」の朗読会が都内で開かれる。堀井さんは小林多喜二の母セキさんの語りを、出身地の秋田県の方言で初めて披露する。

「セキさんって文字も書けないおばあちゃんで、難しいことは何一つ言わないけど、全部見抜いている人なんです。この力さえみんなに備わっていれば世界はもっとうまく回ったはず、と思えるぐらい。言葉って、かっこつけようとしなくても、軸をもって生きてきた人が簡単な言葉で話せば、ちゃんと伝わるんだなと思います」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2022年12月12日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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