ほりい・みか/1972年、秋田県生まれ。95年、TBSにアナウンサーとして入社。「久米宏 ラジオなんですけど」などを担当。今年3月にTBSを退社し、現在はフリーとして活動している(photo 写真映像部・松永卓也)
ほりい・みか/1972年、秋田県生まれ。95年、TBSにアナウンサーとして入社。「久米宏 ラジオなんですけど」などを担当。今年3月にTBSを退社し、現在はフリーとして活動している(photo 写真映像部・松永卓也)

 自分の思いを言葉で伝えることは難しい。SNSなどで人と簡単につながることができるようになった分、もどかしさを感じる機会も増えた。言葉とともに歩んできたフリーアナウンサー・堀井美香さんが語る、「力のある言葉」とは。2022年12月12日号の記事を紹介する。

【写真】長男の私立小受験などについて語った堀井美香さん

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 27年間勤めたTBSを今年3月に退社し、フリーアナウンサーとして活躍する堀井美香さん(50)。ナレーションの名手として知られる「読みのプロ」である堀井さんの人生を動かした言葉は「読みの間(ま)は人生で埋めなさい」だという。

 このメッセージはTBSの新人研修で、先輩アナウンサーの宇野淑子(よしこ)さんから授かった。最初はピンとこなかったが、年を重ねるごとに実感がわいてきたという。

「同じ文章を読んでも、その人ごとに違いが出るものだなあというのが、最近ようやくわかってきました」

 例えば、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」を朗読すると、堀井さんと農作業に従事してきた人、教師だった人で、その場に流れる空気や時間は全く異なる。語調や息づかい、言葉と言葉をつなぐ間、行間を読む力も、その人の世界観が全て反映される。だから、と堀井さんはこう続ける。

「トークも読みも文章も、言葉は全て、その人の何十年かの人生が集約されるものなんだと思います」

■忘れられない音色

 堀井さんには、その手本ともいえる人物の記憶がある。秋田県男鹿市で育った幼少期。母親が病気になり、一時、漁業をしている叔父の家に預けられた。漁を終えて近所の角打(かくう)ちの店に呑みに出た叔父を迎えに行くのが堀井さんの務めだった。その帰り道、ほろ酔いの叔父が店内に飾ってあった詩の一節を朗々と復唱していたのが、まさに「人生で埋められた」読みの間や言葉の艶と重なった。

「誰のどういう詩だったかは思い出せないんですが、叔父が発していた言葉の音色は今も忘れられません。普段から決して上手な語りができる人ではなかった叔父が、路地を歩く帰り道、誰もまねできない魅力ある語り手になっていました」

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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