複数の大学(就職課)に問い合わせたところ、「そうした学生はいない」「並行はすすめていない」といった回答だった。しかしインターネットでは、「内定を取りながら院試を受け合格した体験談」などの書き込みがあり、こうした学生はいるようだ。

 並行せざるを得ない学生には、次の2パターンがあるだろう。1つ目は大学院が第一志望で、不合格だった場合に就職するパターン。2つ目は就活がうまくいかなかったら、大学院に進学するパターンだ。

 これについて、稲葉さんも高綱准教授も、「前者1つ目はありだが、後者の2つ目はおすすめできない」と言う。

「大学院は学びを深めるところであり、修士論文の作成が大きな目的の一つです。専門性の高い学びが続くため、『就活がうまくいかなかったから』、と軽い気持ちで入ると、本人にとってつらいでしょう」(高綱准教授)

 1つ目の場合、どのような姿勢で取り組むのがよいのだろうか。

「大学院で学びたいことと、就職先で貢献したいことがある程度同じ方向を向いていると、両立しやすいと思います。例えば就職面接で、『なぜうちの会社に入りたいのか』と聞かれたときのために準備することが、大学院の志望動機にもつながるため、入試にも役立ちます」(高綱准教授)

 なお、特殊なケースではあるが、都道府県ごとに実施される教員採用試験では、近年の教員不足への対策などから、さまざまな特別選考を実施している。例えば愛知県では「大学院進学による採用辞退者に対する特別選考」があり、学部4年次に採用試験を受けながら、大学院受験が可能だ。

 一方、一般企業の場合は大学院入試の合否よりも先に内定をもらうことがほとんどで、合格したらすみやかに内定を断らなければならない。

 ただし、繰り返しになるが、こうしたケースはできれば避けたほうがよく、迷った場合はできるだけ早く専門家に相談するのがいい。

「大学の就職課にはほとんどの場合、キャリアコンサルタントが常駐していますので、遠慮なく声をかけてください。迷うのには理由があります。その感情や経験を話し掘り下げていくことで、自分に合った選択肢が見えてきます」(稲葉さん)

「学内では少し相談しづらい場合は外部の機関に相談するのもいいでしょう。例えば地域のハローワークには若い人を支援する専門のキャリアコンサルタントがいます。このほか、学外で実施されている大学生向けのセミナーを受けたり、有料にはなりますが、そこに来た講師に個別にコンサルティングを依頼する方法もあります」(高綱准教授)

 やりたいこと、学びたいことを実現する方法は一つではない。迷いながら、悩みながら、自分にとってのキャリアプランを模索し、選択してほしい。

(文・狩生聖子)

アエラムック『大学院・通信制大学2022』より

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