水着はどれほど泳ぎに影響するのだろうか。08年に英スピード社が発表した「レーザー・レーサー(LR)」は、高速水着騒動を起こしたことで知られる。体を締め付け、ポリウレタン製の薄い膜のようなパネルをはり付けた水着だ。着用した欧米の選手が好記録を連発。日本のメーカーの水着を着ていた日本選手も、北京五輪では多くがLRに切り替えた。
元日本水泳連盟広報委員の望月秀記さんは、騒動の予兆は北京五輪の10年ほど前から始まっていたと指摘する。
「昔の男性用水着はVパンツ型でしたが、1998年の世界選手権にはスパッツ型、00年シドニー五輪では全身を覆う水着が登場しました。水着は泳ぎの速度や浮力を助けないという考えから、水着で筋肉のぶれを抑え、体を締め付けて水の抵抗を減らし、泳ぎを助けるものに変わりました」
開発競争は激化し、水や空気を通さないラバー製の水着も登場した。そのため国際水泳連盟は素材や形状など細かい制約を定めた。
■多くの人が一緒に戦う
ミズノの社員としてGXシリーズの開発に関わってきた、12年ロンドン五輪女子100メートル背泳ぎの銅メダリスト、寺川綾さん(36)は言う。
「水着も信頼し、自信を持ってスタート台に立つことが、いいレースにつながる。開発にかかわってくれた多くの人たちが一緒に戦ってくれているようで心強かったです」
縫製工場では選手の写真を飾り、丁寧につくっているという。
国際水連の水着認可委員会委員を10年以上務めてきた中京大学スポーツ科学部教授の高橋繁浩教授(60)はこう話す。
「現在の水着は厳しいルールの中で作られているので機能的な差はあまりなくなった。ただ、LRの登場以来、選手たちの中で水着が記録短縮をサポートしてくれるという期待が高くなっています」
池江は、自らが開発に携わった水着で好記録を目指す。(編集部・深澤友紀)
※AERA 2021年7月26日号より抜粋