フードコートでたこ焼きを食い、夕方、家に帰るとすぐ、電話が鳴った。先週、人間ドックを受けた病院の看護師からだった。胃の内視鏡生検で採った検体の詳細な病理検査をするといい、ドックの結果説明を一週間、先延ばしにして欲しいという。これがマンガなら、わたしの頭から“ガビーン!!”というゴジック体の文字が出た場面だ。

 その病院の主治医に電話をしたが、帰宅していたから、友だちの医師に電話をして情況を報告した。これはどういうことか、と。彼がいうには、悪性腫瘍か否かの判断は普通、一週間でできるといい、詳細な病理検査をするのは“ほかの可能性”があるという。

「ほかの可能性てなに?」「悪性リンパ腫とかカルチノイド。でも、極めて稀(まれ)やから、ないと思う」つまるところ理由は分からない、と彼はいった。

 次の日、人間ドックの病院へ行って主治医に話を訊いた。主治医はモニターにわたしの胃の画像を出して「この部分を生検した」といい、「ほんの少しでも悪性の可能性があるときは免疫染色して再検査します」といったから、わたしの“ガビーン!!”は半分に縮小し、よめはんも「よかったね」と微笑んだ。

黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する

週刊朝日  2021年8月6日号

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