黒川博行・作家 (c)朝日新聞社
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※写真はイメージです (GettyImages)
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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、人間ドックの結果について。

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 久々に見たい映画が公開された。キャリー・マリガン主演の『プロミシング・ヤング・ウーマン』。

 キャリー・マリガンという女優を見たのは2009年公開の『17歳の肖像』(この作品で彼女は英国アカデミー賞主演女優賞を受賞した)が初めてだったが、ほとんど記憶に残っていない。映画のストーリーも忘れているのは、たぶんわたしには合わなかったのだろう。

 彼女の名を憶えたのは2013年公開の『華麗なるギャツビー』だった。ショートカットのブロンドが、えくぼの童顔によく似合っていてかわいい。若いころのメグ・ライアンを思わせて、いっぺんに好きになった。2018年公開の『ワイルドライフ』もよかったし、今年の一月からネットフリックスで配信されたオリジナルドラマの『時の面影』もよかった。

 本誌七月二十三日号の《Cinema preview》によると、『プロミシング・ヤング・ウーマン』は数多くの映画賞を受賞し、本年のアカデミー賞でも、作品、監督、脚本、編集、主演女優の五部門にノミネートされたという。

 ──で、わたしはいつものごとく、よめはんを誘った。シネコンで映画を見ましょうと。「ピヨコの好きな怖い映画とちがうやろね」「大丈夫です。ゾンビやモンスターやサイコパスは出てこんから」「それやったらいいわ」よめはんが警戒するのは、嘘つきのわたしに何度も騙されているからだ。

 午後の上映に合わせて八尾のシネコンへ行った。よめはんと手をつないで映画を見る。

 ストーリーは、ざっくりいえば、主人公の親友を死に追いやった男と女たちへの復讐劇だった。プロットはシンプルだが、シナリオがよくできていて、シーンのひとつひとつに、あとで“そういうことやったんか”とうなずける意味がある。ディテールと結末に首をかしげるところはあったが、ハリウッド流エンターテインメントだから気にならない。よめはんもわたしと同意見だった。

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