最高の空間で露呈した思慮の浅さ(イラスト:サヲリブラウン)
最高の空間で露呈した思慮の浅さ(イラスト:サヲリブラウン)
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 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 11月半ば、メインパーソナリティーを務めるTBSラジオ番組「生活は踊る」のリアルイベントを、ようやく実施することができました。

 イベントに「リアルか否か」が問われるようになったのは、ご承知の通りコロナ以降です。リアルではないイベントとは、オンラインイベントのこと。何度か経験し、これはこれでとっても楽しいとは思います。

 それでもやはり、物理的に「集まる」ことで生まれるエネルギーは存在すると痛感した夜でした。リスナーの愛に満たされた会場は、最高の空間でした。

 ラジオは聴き手に語り掛けるメディアです。しかし、相手の顔は見えません。どんな人がどんな風に聴いてくれているのか? 想像しながらしゃべるしかありません。

 以前は年に一度の合同リアルイベントがあり、そこで顔合わせができましたが、ここ数年はそれが叶いませんでした。にもかかわらず、ラジオを聴く人はグンと増えたのです。リモートワークやポッドキャスト配信の充実のおかげです。それでも、1千人超えキャパシティーの会場が埋まるか、正直少し心配でした。

 蓋を開けてみれば、それは杞憂に終わりました。ステージに出てみれば、会場を埋め尽くしていたのはリスナーの笑顔。嬉しくて嬉しくて、ここぞとばかりに「見えるラジオ」をやりました。みなさん楽しんでくださったと思います。しかし、思慮が浅かったとも思うのです。

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