<俺が何とかしなくちゃ 俺が守ってあげないと可哀想だろ!!>(我妻善逸/3巻・ 第23話「猪は牙を剥き 善逸は眠る」)

 そして、責任感と正義の心、それに反する恐怖によって、善逸は極度の緊張状態から「眠り」におちいってしまう。しかし、この「昏倒(こんとう)」こそが、「自信のなさ」から自らを解放する「覚醒」の鍵になるのだ。

<雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃(へきれきいっせん)>(我妻善逸/3巻・ 第23話「猪は牙を剥き 善逸は眠る」)

 実は善逸は、元鳴柱・桑島慈悟郎(くわじま・じごろう)の弟子で、「雷の呼吸」の後継者のひとりだった。善逸の技の威力とスピードは、鮮烈な印象を見る者に与える。まさに「雷」の名にふさわしい強さだ。

■善逸の優しさと信念

 善逸が強さをみせるのは、「眠っている」時だけではない。「鼓の鬼」の館に突入していた、嘴平伊之助(はしびら・いのすけ)が、炭治郎の「箱」を破壊しようとしたことがあった。

 この箱には鬼の妹・禰豆子(ねずこ)が隠されていた。伊之助が攻撃したのは、炭治郎の箱に鬼の気配を感じたからで、鬼を滅殺しようとした伊之助の判断はまちがっているわけではない。伊之助も善逸も、箱の中身がどんな鬼なのかはわからないのだから。

 しかし、善逸は炭治郎を信じて、その箱を命がけで守ろうとした。

<炭治郎…俺…守ったよ…お前が…これ…命より大事なものだって…言ってたから……>(我妻善逸/3巻・ 第25話「己を鼓舞せよ」)

 さらに善逸は、隊士同士だからという理由で、伊之助に痛めつけられても、日輪刀を抜こうとはしない。「鬼殺隊でありながら鬼を連れてる炭治郎 でもそこには必ず事情があるはずだ」という信念のもと、善逸は誰も傷つけない。

<俺は自分が信じたいと思う人を いつも信じた>(我妻善逸/4巻・ 第26話「素手喧嘩」)

 善逸は、自分が傷つくことも、三枚目であることもいとわない。他者を信じ、その信念のために、自分をかけることができる「強さ」を持っている。

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「静かに怒る」ときに本質が出る