在宅医療は医師や看護師、ケアマネジャー、服薬指導などを行う薬剤師、リハビリを行う理学療法士など、さまざまな専門家が連携を取りながらサポートしてくれる。
前出のA男さんは、64歳だったが、要介護認定を受けると要支援1。介護ベッドをレンタルした。自力で入浴するのが困難になってから訪問入浴を利用するというように、そのときの体調に応じて、介護サービスを使うことができる。
末期がんの人以外にも、「在宅死」を選択した人はいる。
認知症のB子さん(当時98)は、肺炎で入院したとき、持病の心臓病も抱えていたので療養型の病院への転院を勧められたが、娘(同75)が自宅での療養を決めたという。
「食事は少しずつですが、口から食べさせてあげると『うん、うん』と言いながら喜んでいたようです。B子さんはほとんど寝たきりだったので、娘さんは三度の食事やおむつの取り換えなど、毎日の暮らしの世話から、床ずれのケアまで丁寧に介護されていました」
穏やかな日々は3カ月ほど続いたが、お別れは突然やってきた。
いつものとおりに昼ごはんを食べて、娘が自分の食事を済ませてB子さんのベッドを見に行くと、すでに呼吸が止まっていたという。中村医師たちが駆けつけ、死亡を確認した。
亡くなった後に、体をきれいにして身なりを整える「エンゼルケア」を行った。エンゼルケアは訪問看護師か葬儀会社のどちらに頼んでもよいが、訪問看護師が行うと費用が5千~2万円程度かかる。葬儀会社ではセットで含まれているケースがあるので重複していないか確認する必要がある。
「『よかったね、きれいにしてもらったね』と、娘さんたちが涙を流しながら、穏やかな笑顔を浮かべていました。思い出話をしながら100歳近くまで頑張って生きてきたB子さんの人生をみんなでたたえるような穏やかなお見送りができました」
娘たち遺族も、自分ができることをすべてやりきった満足感から、「在宅死を選んでよかった」と振り返っていたという。(ライター・村田くみ)
※週刊朝日 2021年8月13日号より抜粋