いろいろあって閉店したとはいえ「鮨処しま田」はいい思い出の場所だ。自分の店で仲間を呼んで飲めるというのは、解放感と充実感があったし、楽しい時間が過ごせる場所だった。呼んだレスラーが騒ぎすぎて、ほかのお客さんに「うるさい!」と怒られることもしばしばだったけど(笑)。なにより、俺の試合があまりなく、トレーニングしかしない日々が続いて「俺は何をやっているんだろう」と自問自答していた時期も、この店が逃げ場となって支えてくれたのも事実だ。
俺にとっても店はファンだけでなく、俺やプロレスを知らない人との交流の場でもあったし、そこからプロレスファンになってくれた人も大勢いる。プロレスを知らない人と一番触れ合ったのは店での時間だからね。今でも「ここは『しま田』があった場所だよね」「よく『しま田』に行っていましたよ」という話を聞く機会もあって、懐かしく、感慨深い気持ちになる。
ずいぶん職人の悪口も言ったけど、うちにいた職人が出した店にうちのお客さんだった人が今も通っていたり、職人だった人が天龍プロジェクトの試合を観に来てくれたりと、今も店の縁と人の交流は続いているんだ。だからあんまり悪いことも言えないんだけど、あの時大変な思いをして店を切り盛りしていたのは事実だし、まぁ、良しとしよう!(笑)
(構成・高橋ダイスケ)
天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。