西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回は「『こころ』と『いのち』」。
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【虚空】ポイント
(1)『菜根譚』は「人間の心は宇宙そのもの」という
(2)草原に生まれる雲のシンフォニーにいのちを感じる
(3)こころもいのちも虚空の広がりと一体となっている
私が提唱するホリスティック医学では、人間をからだ(体)、こころ(心)、いのち(生命)からとらえます。このうち、「からだ」はわかりやすいのですが、「こころ」「いのち」とは何かと問われると、一口では答えられないところがありますね。
まず、こころについてです。中国明代の洪自誠による人生指南の書『菜根譚』に「人間の心は宇宙そのもの」という記述があります。
「人間の心の本体は、それがそのまま宇宙そのものである。一つの喜びの心は、めでたい星やめでたい雲であり、一つの怒りの心は、とどろく雷やはげしく降る雨であり、一つの他をいつくしみ愛する心は、のどかな春風やめぐみの雨であり、一つのきびしい心は、照りつける夏の太陽やきびしい秋の霜である。このような人間の心は、宇宙の現象そのもので、どれを欠くことができようか。(中略)宇宙の根元と心の本体は同じであるということになる」(中村璋八・石川力山=訳注、講談社学術文庫)
いいですねえ。なんと大きく豊かな心なのでしょうか。ここで言われているのは、こころは、それぞれ一人ひとりの中にあるのではなく、宇宙という外界と一体だということです。
では、いのちはどうでしょうか。以前、パンダのシンシンが出産する情景をテレビで見たことがあります。あの大きなシンシンのからだから、片手にのるくらいのとても小さい赤ちゃんパンダが生まれました。毛がまったくないつるつるの赤ちゃんが動いているのを見て「ああ、これぞいのち!」と感動しました。