こうした臨床の知を中村先生は「コスモロジー」「シンボリズム」「パフォーマンス」といった構成要素でとらえています。一つひとつが持つ有機的な秩序を大事にし(コスモロジー)、物事を多義的に捉え(シンボリズム)、立ち会う人々が相互作用を成立させている(パフォーマンス)ことが必要だというのです。
「科学の知は、抽象的な普遍性によって、分析的に因果律に従う現実にかかわり、それを操作的に対象化するが、それに対して、臨床の知は、個々の場合や場所を重視して深層の現実にかかわり、世界や他者がわれわれに示す隠された意味を相互行為のうちに読み取り、捉える働きをする」(『臨床の知とは何か』より)
ここで中村先生が語っていること、実によくわかります。エビデンスは「科学の知」の世界の話であって、実はわれわれ医療者に切実な「臨床の知」の話ではないのです。これを肝に銘じなければいけません。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2022年12月2日号