そう言うと塩見さんは、傍らに置いた杖に一瞬視線を移し、こう続けた。
「パラリンピックの義足のランナーを見て、なんて綺麗なんだろうと思います。それは彼らが何かを乗り越えたからなのかもしれません。目が悪いから眼鏡をかけるのと同じで、足が悪いから杖をつく。もっと悪いから車イスを使うんですよね。道具というものはあくまでも生きるための一つの装置ですから、怖がる必要はないんです」
最後に、星野源さんが本書の帯に寄せたエールを紹介したい。
<あの日、迂闊にエッセイ執筆を勧めて本当によかった。僕の友達が、こんなに豊かで激しく生きる力に溢れた本を書くなんて。全ての“あの暗闇”を知っている人へ、そして全ての“暗闇”を恐れる人へ、届きますように。>
表現者・塩見三省が紡いだ一冊の本。それは、まるで“暗闇”を照らす月明かりのよう。そう感じさせるのは、本書が「乗り越えた人」だけがたどりつける「やさしさ」に満ちているからではないだろうか。
(編集部・三島恵美子)
※AERA 2021年9月6日号