AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
『歌うように伝えたい 人生を中断した私の再生と希望』は、俳優・塩見三省が自らの闘病、リハビリ、俳優としての復活までの7年間をつぶさに見つめた珠玉のエッセー集。病に倒れてからの一挙一動も克明に描写されており、病気への理解にもつながる貴重な一冊でもある。岸田今日子、つかこうへい、植木等、大杉漣、長嶋茂雄、岩井俊二、北野武らとの心温まるエピソードも紹介。著者である塩見さんに、同著に込めた思いを聞いた。
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日常の断絶は、ある日突然やってきた。
俳優、塩見三省さん(73)が病に倒れたのは今から7年前。舞台、映画、そしてテレビドラマと、役者として充実した日々を送る最中のできごとだった。病名は脳出血。一命はとりとめたものの、左半身の手足には麻痺が残った。
本書は、病のこと、入院生活のこと、絶望の日々からの俳優復帰までを真摯な言葉で綴ったエッセー集だ。
「本を書いてみて、一つの区切りみたいなものができた気がします。この7年、ある意味で生と死を彷徨っていました。苦しかったし、大変でしたけれど一生懸命であるがゆえに、それは澄んでいて透明で、とても貴重な時間だったと思えます」
塩見さんを本の執筆へと向かわせたのは、ドラマ「コウノドリ」で共演した星野源さんの「何か書けばいいのに」という言葉だった。実際に本格的に書き始めるまでには発症から4、5年の歳月を要したというが、塩見さんにとって執筆するという行為は、生きる意味を問い直す時間でもあった。
「これまでは、自分の表現の場は演技でした。今も俳優をやっていますが『健常のときとちっとも変わらない』っていう人もいます。でも、それは違う。障害を隠して健常のように見せるのではなく、不自由な足を引きずって歩くことが僕にとっての俳優としての仕事なんです。病や事故、災禍によって、人生をいきなり中断した人たちの側に立ち、その人たちを少しでも力づけることができたとしたら、本当におこがましいけれども、自分が俳優としてやっていく価値はあるのではないかと。そして今度、このエッセーを書いたことで、神様がもう一つ自分の表現手段を与えてくださったんだなって思っています」