■外来魚に食べられて激減


千葉県・印旛沼のほとりにある「レストラン錦谷」で。ザリガニは利根川周辺で捕獲されたもの。入荷したときでないと食べられない。なかなかの高級品だ(筆者撮影)
千葉県・印旛沼のほとりにある「レストラン錦谷」で。ザリガニは利根川周辺で捕獲されたもの。入荷したときでないと食べられない。なかなかの高級品だ(筆者撮影)

 ちなみに、「アメリカザリガニは生きた状態で放されてしまうのが問題であって、食べていただくぶんには別にかまわないというか、特にそういった考え方は示していないですね」と、前田さんは言う。

「例えば、北海道に生息している外来種にウチダザリガニというのがいるんですが、これはロブスターみたいな味でけっこうおいしい。駆除活動の一環で、食べるところまでやりましょう、ということが行われています」

主に北海道に生息するウチダザリガニ。特定外来生物に指定され、最近では千葉県でも確認された。もともと食用として輸入されたもので、味はロブスターに似ているという(環境省提供)
主に北海道に生息するウチダザリガニ。特定外来生物に指定され、最近では千葉県でも確認された。もともと食用として輸入されたもので、味はロブスターに似ているという(環境省提供)

 環境省のホームページによると、千葉県北部から茨城県南部の利根川水系周辺ではアメリカザリガニを食べる習慣があるという。

 インターネットで検索すると、ザリガニ料理を出す店はすぐに見つかった。その一つ、千葉県・印旛沼のほとりにあるレストラン錦谷を訪ねた。すると、支配人から意外な話を聞かされた。

「昔は『マッカチン』っていうデカいのがいっぱいいましたよ。ザリガニ釣りをすると、すぐにバケツいっぱいとれた。でも、いまは、いないです」

 実は筆者は子どものころ、親に連れられて印旛沼に遊びに行ったとき、沼から引き上げられた網の中に巨大なアメリカザリガニが大量に入っていたのを目にして、とても驚いたことがある。しかし、それは昔話という。

「田んぼの水路がコンクリートになって生息地が減った。農薬でもだいぶやられた。あと外来種の魚、バスとかに小さいときにみんな食べられちゃう」

 同じ外来生物に捕食されてアメリカザリガニが激減していたとは、皮肉な話だ。

■中国人バイヤーもやってくる人気食材

アメリカザリガニはさまざまな生きものを捕食する。一度、侵入してしまうと、根絶するのはかなり労力と費用がかかる(環境省提供)
アメリカザリガニはさまざまな生きものを捕食する。一度、侵入してしまうと、根絶するのはかなり労力と費用がかかる(環境省提供)

 店で出されているザリガニは利根川付近で漁師がとったもので、「いまでは高級品ですよ」。 そんな話を聞いているうちに塩ゆでにされたザリガニの皿が運ばれてきた。 殻全体が鮮やかな赤色に茹で上がり、なかなかインパクトがある。インスタ映えしそうだ。

 身のほとんどは尻尾の中に詰まっており、濃厚な、エビとカニを合わせたような味がする。胴の部分にはミソが入っている。

アメリカザリガニを塩ゆでにして、殻をむいたところ。尻尾の部分の身がほとんどで、ミソがついている。中華料理では人気の食材(筆者撮影)
アメリカザリガニを塩ゆでにして、殻をむいたところ。尻尾の部分の身がほとんどで、ミソがついている。中華料理では人気の食材(筆者撮影)

「うまいですね」

「でしょう。女性にも人気で、好きな人はエラまでしゃぶる。そこにもミソが少しついているんですよ。地元の人はけっこうニンニク醤油で食べる。甘酢で食べる人もいますね」

 中国では人気の食材だそうで、最近は中国人バイヤーがここまでやってくるという。

 ザリガニを料理する際は泥抜きをしてくさみをとることが肝心で、しばらくきれいな水で飼い、十分に泥を吐かせてから、加熱調理する。

 ただ、飼っているうちに情が移ってしまいそうな気もする。そこで先の前田さんの話を思い出した。

「外来種だけでなく、飼った生きものは最後まで責任を持って飼っていただきたい。それが大原則です」

身近な場所に住むアメリカザリガニ。子どものペットとして人気だが、最後まで責任を持って飼ってほしい(環境省提供)
身近な場所に住むアメリカザリガニ。子どものペットとして人気だが、最後まで責任を持って飼ってほしい(環境省提供)

(AERA dot.編集部・米倉昭仁)