■将来的には根絶を目標とするが


石川県金沢市のシャープゲンゴロウモドキの生息していた池。左はアメリカザリガニの侵入前で、水面には水草が生い茂っている。ところが、1990~2000年代にザリガニが侵入すると植生は消失し、水も茶色く濁っている(右)。シャープゲンゴロウモドキは絶滅し、ほかの水生生物もほとんど確認されなくなった(写真提供:西原昇吾氏)
石川県金沢市のシャープゲンゴロウモドキの生息していた池。左はアメリカザリガニの侵入前で、水面には水草が生い茂っている。ところが、1990~2000年代にザリガニが侵入すると植生は消失し、水も茶色く濁っている(右)。シャープゲンゴロウモドキは絶滅し、ほかの水生生物もほとんど確認されなくなった(写真提供:西原昇吾氏)

 アメリカザリガニは昔からあまりにも身近な場所に生息しているため、侵入以前の状況を知る人は少ないが、侵入前後を写した写真は衝撃的で、生態系が一変していることがひと目でわかる。

 水面に豊かに生い茂っていた水草がまったくなくなり、池の水が濁り、泥色になっている。「専門家の先生は、この水の色を『ザリガニ色』というそうです」。しかし、これだけ生息範囲が広まってから対策に乗り出しても効果はあるのだろうか?「将来的には国内での根絶を目標とはしますが、なかなか難しい」としたうえで、「短期、中期的には、まだアメリカザリガニが入っていない地域、水系に拡散することを防ぐ。あるいは、世界自然遺産や国立公園など、特に守るべき地域へ広まるのを防止したい」と説明する。「規模が小さい湖沼であれば、防除の取り組みによって根絶にいたれば元の自然を再生できると思う」

 現在、基本的に外来ザリガニは「特定外来生物」に指定され、飼育、運搬、販売、譲渡、野外に放つことなどが規制されている。
 
しかし、その唯一の例外となっているのがアメリカザリガニだ。

■法規制は進むのか?

アメリカザリガニが侵入すると在来種が食べられるだけでなく、産卵場所や隠れ家となる水草が切り取られる。それによって、在来種はさらに捕食されやすくなる(環境省提供)
アメリカザリガニが侵入すると在来種が食べられるだけでなく、産卵場所や隠れ家となる水草が切り取られる。それによって、在来種はさらに捕食されやすくなる(環境省提供)

「緊急対策外来種」の筆頭に挙げられているアメリカザリガニはなぜ特定外来生物に指定されないのか?

「実は以前から特定外来生物に指定すべきだ、という意見はありました。では、なぜ、指定されないのかというと、アメリカザリガニはとても身近な種で、多くのご家庭や学校で飼われているからなんです」

 推定では約65万世帯で、540万個体ほどが飼育されているという。

 今後、仮にアメリカザリガニが特定外来生物に指定されたとしても申請すれば飼い続けることができる。

「けれど、そういう周知が行き渡らず、『飼えなくなっちゃったな』と、野外に捨ててしまう。あるいは、『面倒くさい』と、放してしまうことが想定される。規制の効果よりも、まだザリガニが入っていない水域に放出されてしまうリスクのほうが高いのではないか――そういった判断でこれまで特定外来生物への指定は見送られてきました」

 では今後、法規制は進むのか?

「8月の専門家会議で、『規制の仕組みを検討するように』と、提言いただきましたので、それを踏まえて環境省中央環境審議会で引き続き検討、議論を行います。ただ、具体的にどうなるかは未定です」

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