イグ・ノーベル賞の解説をする日本科学未来館の三澤和樹さん(日本科学未来館提供)
イグ・ノーベル賞の解説をする日本科学未来館の三澤和樹さん(日本科学未来館提供)

 意外だったのは、「歩きスマホの人だけでなく、それ以外の人もうまく歩行ができなくなっている。つまり周囲に影響が波及していることでした」と村上氏は言う。

 ちなみに、歩きスマホの場合歩行の速度が遅いことはよく知られているが、それについても追試をおこなった結果、人流形成に重要なのは「予期」であり、歩行速度の低下とは関係ないことも証明したという。 

■脳の処理は「ぜんぜん分かっていない」

「人間は無意識のうちにさまざまな情報を処理しながら歩行しているのは間違いありません。でも、歩きながら得た情報を脳がどう処理しているのかは、まだぜんぜん分かっていないんです」

 今回は大学内での実験だが、「東京・渋谷の駅前交差点でも調べてみたいです」と村上氏は言う。

「でも相当複雑なんです。さまざまな方向からものすごい数の人が流れ込んできて、何事もなかったように通過する。そのメカニズムを将来的に調べられたら、本当にうれしい」

 イグ・ノーベル賞の受賞については、「まったく考えたこともなかった」と言う。

「でも、日常で親しみのあるもの、そのなかで何か違和感があって考えさせられるもの、そこに新しい発見が生まれるんじゃないのかなと思っています。そんな研究を対象にした賞だととらえると、今回の受賞は非常にうれしいです」

■「何の役に立つの?」を真面目に研究

 毎年、イグ・ノーベル賞の面白さと奥深さを子どもたちに伝えてきた日本科学未来館の科学コミュニケーター、三澤和樹さんはこう語る。

「ノーベル賞は『人々に貢献した業績』に対して贈られるのに対して、イグ・ノーベル賞の研究は、『それって、何の役に立つの?』というものがたくさん入っています」

 子どもが疑問に思うようなことを大人はスルーしてしまいがちだが、「イグ・ノーベル賞の研究者は、そういったことを真面目に実験する。それをきちんと評価しているところが意義深い。ユーモアで切り取って、より多くの人に注目してもらう、という手法も非常にうまいと思います」(三澤さん)。

 わが国には、身近なものに目を向けて、独特の自然科学の研究を行ってきた伝統がある。そんな背景もあって日本人の受賞が多いのだろう。研究テーマの多様性や柔軟性が感じられるイグ・ノーベル賞。今後も日本人受賞者の輩出を期待したい。(AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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