イグ・ノーベル賞を受賞した村上久・京都工芸繊維大助教 (c)朝日新聞社)
イグ・ノーベル賞を受賞した村上久・京都工芸繊維大助教 (c)朝日新聞社)
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 毎年、ユニークな研究に贈られる「イグ・ノーベル賞」。今年は京都工芸繊維大学の村上久助教らの研究グループが「動力学賞」を受賞した。日本人の受賞は15年連続の快挙だ。村上氏に受賞研究について聞いた。 

【写真】「歩きスマホ」の人がいると、歩行者の流れはどうなる?

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 イグ・ノーベル賞とは、ノーベル賞のパロディーとして「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」を評価するもの。1991年にユニークな科学研究を紹介するアメリカの雑誌「Improbable Research」のマーク・エイブラハムズ編集長が創設し、奇抜さや、想像力豊かな人をたたえることで、科学への関心を高めようというもの。日本人の受賞も多く、「おもちゃ『たまごっち』の開発」(1997年、経済学賞)、「バナナの皮の滑りやすさの解明」(2014年、物理学賞)、「ワニにヘリウムガスを吸わせ鳴き声の変化を確認」(20年、音響学賞)などがある。

 今回村上氏が受賞したのは、人間の「群れ」における「予期」に関する研究だ。研究内容について、村上氏はこう説明する。

「歩きスマホの危険性を調べた研究が受賞した、と受け取られることも多いんですが、歩きスマホは実験の目的ではなくて、あくまでも実験の要素。よく知られた歩きスマホの特性を利用して、人流ができるメカニズムを解き明かすための研究なんです」

■主流の物理学的モデルでは解けない謎

 村上氏は長年、動物の群れの研究に携わってきた。

「例えば、魚や鳥の群れ。リーダーがいないのに、集団としてまとまった動きをする。専門的には『自己組織化』というんですが、たくさんの個体が集まると、全体として1つの生きものみたいな振る舞いをする。実は人間も同じように、自然と集団化して人流がつくられるんです」

 例えば、大勢の人が横断歩道を渡る際、いくつかの細長い人の群れができ、それによって対向する人とぶつかりにくくなり、スムーズに人が流れる。

「当然のことながら、歩行者一人ひとりは全体の秩序を意識していません。でも、自然と歩行レーンみたいな人流ができる。なぜそうなるのかは、よくわかっていないんです。コンピューター上で歩行者の動きを再現しようとしても、実際の人間のようにはスムーズに流れません」

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人間は「予期」しながら歩いている