カウンターでは、野口さんがお客さんの目の前で一杯ずつ丁寧にラーメンを作る。丼にタレを入れ、寸胴(ずんどう)の上澄みの脂を入れ、スープを入れる。チャーシューは都度切り立てで提供。寸胴ではチャーシューにする豚肉も一緒に煮て、途中で抜いて醤油ダレにくぐらせて味を染み込ませる。味玉は一個ずつ紐で切っている。
具はチャーシュー、味玉、ネギ、お麩、ノリ。お麩のピンクの色合いも良い。スープはしょっぱすぎず、豚のダシがビシッと効いていて、脂もきつくなくていいバランスだ。太め平打ちの麺は柔らかいが太くしっかりしていて、スープをよく持ち上げてとてもおいしい。
古いビルの中の小さなテナントで店主とお客が一体となって作り上げる空気感は、まさにラーメンの原点。先進的で新しいラーメンを中心に評価してきたミシュランガイドだったが、こういったノスタルジックなラーメンが評価されたことは新たな動きと言っていいだろう。
近年のラーメン界では、新しさを追い求めるあまり王道からかけ離れたものが多い傾向にあった。しかし、今回の「はるちゃんラーメン」の受賞により、原点回帰ともいうべきラーメンの魅力に気づかされた人も多いはずだ。野口さんは言う。
「目の前のお客さんに一杯一杯心を込めて作ってきました。まさか自分がこのような賞をいただけるとは思っていなかったので驚いておりますが、これからも変わらずお客さんを大事にラーメンを作っていきたいと思っています」
ミシュランガイドの掲載店を見ていくと、その年のトレンドが一目でわかる。今いちばんホットな店にぜひ足を運んでみていただきたい。(ラーメンライター・井手隊長)